中門ちゅうもん)” の例文
寺の門はさながら西洋管絃楽の序曲プレリュードの如きものである。最初に惣門そうもんありその次に中門ちゅうもんあり然る後幽邃なる境内あってここに始めて本堂が建てられるのである。
相手の用意に裏をかかれた盗人の群れは、裏門を襲った一隊も、防ぎ矢に射しらまされたのを始めとして、中門ちゅうもんを打って出た侍たちに、やはり手痛い逆撃さかうちをくらわせられた。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
で、彼は悠々と内へ進んでいったが、さらに中門ちゅうもん侍郎じろうへむかって、訪れを再びした。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて中門ちゅうもんより、庭の柴折戸しおりどを静かに開けて、温雅しとやかに歩み来る女を見ると、まぎれもないその娘だ、文金ぶんきんの高島田に振袖のすそも長く、懐中から垂れている函迫はこせこの銀のくさりが、そのおぼろな雪明りに
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
と、中門ちゅうもん口に立ちはだかって、無類の大音声だいおんじょうで見参する。稚気をおびた嫌がらせにすぎないが、輿入れや息子の袴着祝などにやられると災難で、大祓おおはらいをするくらいでは追いつかないことになる。
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
突当りに中門ちゅうもんがございまするが、白塗りにて竜宮の様な妙な形の中門で、右の方はお台所から庫裏くりつながっており、正面は本堂で、曹洞派そうどうは禅林ぜんりんで、安国山総寧寺と云っては名高い禅寺でございます。
その前にそびえる中門ちゅうもんまたは山門をば、長い敷石道の此方こなたから遠く静に眺め渡す時である。
それに、今切落きりおとした娘の黒髪とを形見に残して、喜んで再び庭より飛石伝えに中門ちゅうもんく姿を見ると、最早もはや今は全くこの世を思切おもいきりしものか、不思議な事は、スラリとしたその振袖姿の
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
寺男には、その娘に、中門ちゅうもんの庭より私の居間へ入来はいりくる様に命じてやった。
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)