万象ばんしょう)” の例文
旧字:萬象
歩きながら、私は何ものかに感謝しないではいられないような気持になってきた。天地万象ばんしょうが明るく、ゆたかなものにつつまれている。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
陰※いんえいたる空におおわれたる万象ばんしょうはことごとくうれいを含みて、海辺の砂山にいちじるき一点のくれないは、早くも掲げられたる暴風警戒けいかい球標きゅうひょうなり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
丑満うしみつすぎると何処もかしこも白々と霜がむすび、万象ばんしょうせきとして声もない。ただ星のまたたきだけが、一個の黒い怪しい物の行動を見せていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
およそ眼に映ずる宇宙の万象ばんしょう一つとして写生せずんばまざらんとするの気概を示したり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あらゆるものが沈黙し、あらゆるものが静止して、万象ばんしょうは深い眠りにおちているのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あえて春の月ばかりではない、四季を通じて月の光は万象ばんしょうの姿を美しく見せる。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この万象ばんしょうの海ほど不思議なものはない
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
その声は、ただごとでない、地殻を割って、万象ばんしょうの芽が、春へのび出すような力のある、そして、朗かな、生命の誕生を、世に告げるような声だった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
故信長公は、物事に、決して固着せぬお方であった。万象ばんしょうはつねに生々流々せいせいるるとして動いておるもの。それを
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
要は、用うる者が天体のごとく、それらの人々を自然大にうごかせば、万象ばんしょうみな有能でないものはない
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
じっと、こうしていると、無数の星が、寂寞せきばくとした深夜の中に——いいえいい違いました——深夜も万象ばんしょういだいたままです——大きくそろそろと動いているのがわかるではありませんか。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜半よわ万象ばんしょうも、声をあわせて、かれのためにく。