万年筆まんねんふで)” の例文
Hさんはけいこまかい西洋紙へ、万年筆まんねんふでで一面に何か書いて来た。ページかずから云っても、二時間や三時間でできる仕事ではなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
洋服を着て仕舞しまへば、時計、手帳、蟇口がまぐち手巾ムシヨワアル、地図、辞書、万年筆まんねんふでと、平生持歩く七つ道具はの棚とこの卓とに一定して置かれてあるので、二分と掛らないで上衣うはぎ下袴パンタロン
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
今までどこへ泊ってもよく寝られなかった兄さんは、ここへ来た晩からよく寝ます。現に今私がこうやって万年筆まんねんふでを走らしている間も、ぐうぐう寝ています。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
黒足袋くろたびを往来へ並べて、頬被ほおかぶりに懐手ふところでをしたのがある。あれでも足袋は売れるかしらん。今川焼は一銭に三つで婆さんの自製にかかる。六銭五厘の万年筆まんねんふでは安過ぎると思う。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その時の余は印気インキの切れた万年筆まんねんふでの端をつまんで、ペン先へ墨の通うように一二度るのがすこぶる苦痛であった。実際健康な人が片手でかしの六尺棒を振り廻すよりもつらいくらいであった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)