一鑿ひとのみ)” の例文
私はただ半面を見せて少年らしく笑い声を立てているその華奢きゃしゃな横顔を、女のような美しさ——しかもその女も、優れた彫刻家が一鑿ひとのみ一鑿に丹誠めて琢磨した
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
何のじょうを含みてかわがあたえしくしにジッと見とれ居る美しさ、アヽ此処ここなりと幻像まぼろしを写してまた一鑿ひとのみようやく二十日を越えて最初の意匠誤らず、花漬売の時の襤褸つづれをもせねば子爵令嬢の錦をも着せず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
私なんぞ、まったく、この身体からだ溝石どぶいしにして、這面しゃつらへ、一鑿ひとのみ、目鼻も口も、削りかけの地蔵にして、その六地蔵の下座の端へ、もう一個ひとつ、真桑瓜を横噛よこかじりにした処を、さらしものにされていのです。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)