一箇いっこ)” の例文
四月に這入って間もなくのある日、突如として、このえたいの知れぬ幽霊男は、一箇いっこの大胆無謀なる犯罪者として、東京市民の前に現われたのだ。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
人間は、自分が一箇いっこの石ころであるのを、その現実を、つねに拒否しつづけなくちゃ、いけないんだ。……
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
以上するところは、皆予が一身いっしん一箇いっこの事にして、他人にこれをしめすべきものにあらず。またこれをしるすとも、予が禿筆とくひつ、その山よりもたかく海よりもふかき万分の一ツをもいいつくすことあたわず。
これはわたくし一箇いっこの考えではござりません、統計学をお遣り遊ばした御仁はよく知っておいでなさる事で、何も珍しい説でもなんでもないんでございます、と申すと私も大層学者らしい口吻くちぶりでげすが
きもの冷えるような夢幻的な思いがはしって、やがて力無く、ぼくのからだは一箇いっこの死体のようにとまる。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
立ち戻って、足で蹴返けかえしてみると、ハンカチの中から、コロコロと一箇いっこの指環がころがり出した。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一箇いっこのダイヤモンドは充分彼女の貞操ていそうを買い得るものと誤解していたのだ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
今や「レビュー仮面」は時の寵児ちょうじであった。発売元の出張所が、劇場の入口に設けられ、見物人は、切符と一緒に、その一箇いっこ十銭のセルロイド面を、買わねばならないようなことになってしまった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)