一帯いったい)” の例文
旧字:一帶
鵯の止っている栗林は夕空に頭を揃えていて、一帯いったいに空気が沈んで、寂寞ひっそりとしていて悲しそうな景色であった。
不思議な鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
かくの如く国を限ったドナウが西方にだんだん細くなって行くのを僕は見ている。僕のりさける国は一帯いったいの平原であるが、平原に村落があり、丘陵が起伏し、森林の断続がある。
ドナウ源流行 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
背後うしろ一帯いったいの山つづきで、ちょうどその峰通みねどおりは西山梨との郡堺こおりざかいになっているほどであるから、もちろん樵夫きこり猟師りょうしでさえさぬ位の仕方の無い勾配こうばいの急な地で、さて前はというと
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
竜之助が立ち止まって天を仰いだ時は、鈴鹿の山もせき雄山おやま一帯いったいに夜と雨とに包まれて、行手ゆくて鬱蒼うっそう一叢ひとむらの杉の木立、巨人の姿に盛り上って、その中からチラチラと燈明とうみょうの光がれて来る。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)