一切ひとき)” の例文
紋着もんつきしろえりで盛裝せいさうした、えんなのが、ちやわんとはしを兩手りやうてつて、めるやうにあらはれて、すぐに一切ひときれはさんだのが、そのひとさ。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
すなわち稲扱きがみてればそれで田の仕事は一切ひときりが付くので、その日の幸福を記念せざるを得なかったのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
猫の命日には、妻がきっと一切ひときれのさけと、鰹節かつぶしをかけた一杯の飯を墓の前に供える。今でも忘れた事がない。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『襯衣や腹巻を縫ふんですよ。襯衣は三銭にしかなりませんし、腹巻は六厘から一銭までなんですよ。それがね、一寸一切ひときり仕事が切れたものですからそんな風にお米も買へないんですよ。』
女が来て (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「さあ。」と、いって、としちゃんはパンの一切ひときれをいぬげてやりました。
母犬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
横切って向いの杉林に這入るとパノラマ館の前でやっている楽隊が面白そうに聞えたからつい其方そちらへ足が向いたが丁度その前まで行くと一切ひときり済んだのであろうぴたりとめてしまって楽手は煙草などふかしてじろ/\見物の顔を
根岸庵を訪う記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)