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あまおろ
聞て如何にも今日は
晴天にて
長閑にはあれど得て
斯樣なる日は
雨下しといふ事あり能々天氣を
見定て
出帆然るべしといふ吉兵衞
始め皆々今日のごとき
晴天によも
雨下しなどの
難は有べからずと思へば杢右衞門又々
水差に向ひ成程
足下の云るゝ處も一理なきにも有ねど
餘り
好天氣なればよも
難風など有まじく思ふなり
強て
出帆すべく存ずると云に
水差も然ばとて承知し兵庫の
沖を
詠め居たりしが
遙向に山一ツ見えけるにぞ吉兵衞は
水差に向ひ
彼高き山は
何國の山なりや
畫に
描し駿河の
富士山に
能も似たりと問ふ
水差答へて
那山こそ名高き四國の
新富士なりと答ふる
折から
此は
抑何に此山の
絶頂より
刷毛にて引し如き
黒雲の出しに水差は
仰天しすはや程なく
雨下しの來るぞや早く
用心して帆を