めい)” の例文
「そんな筈はありません。何んとか言ふ、名人の打つたものだ相で、鐵磨きですけれど、めいも入つて居り、二本揃つてあつた筈です」
近ごろ大流行の茶寄合ちゃよりあい、つまり闘茶とうちゃ、あれは茶のめいを飲みわけて、あたったはずれたと、一夜に数千貫のかねやら賭物かけものをうごかす博奕だ。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
師匠の鶯も元来そう云う風にして人為的に仕込まれた鶯であり有名なのは「鳳凰ほうおう」とか「千代の友」とか云った様にそれぞれめい
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ところが近世の「美術品」と呼ばれているものを見ますと、どれにも皆めいが書き入れてあります。または落款らっかんが押してあります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
市場に売出す時には火星の栗とか、火星の茄子とか、そうめい打っても一向差支えないと思いますね、——お蔭でいい商標を思いつきましたよ
火星の魔術師 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
勿論もちろん飛騨越ひだごゑめいつたには、七に一けんに五けんといふ相場さうば其処そこあはめしにありつけば都合つがふじやうはうといふことになつてります。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
宗近君は椅子いす横平おうへいな腰を据えてさっきから隣りのことを聴いている。御室おむろ御所ごしょ春寒はるさむに、めいをたまわる琵琶びわの風流は知るはずがない。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
供へいづれも豐島屋十右衛門と云ふ奉納ほうなふめいあり是れ亦今以て存すと云ふ或日此豐島屋の店へ往來者大勢入り込みれいの如く居酒を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
と、老先生ろうせんせいは、おしえていられました。けん一は、あたまれて、書物しょもつうえつめて、先生せんせいのおっしゃることを、よくこころめいじてきいていました。
空晴れて (新字新仮名) / 小川未明(著)
いや、あとで、黄一郎親子が、マスクの裏に記された「弦三作げんぞうさく」のめいに気がついたなら、どのように叱驚びっくりすることだろうか。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
朝敵とめいついて、ソコで将軍御親発ごしんぱつとなり、又幕府から九州の諸大名にも長州にむかって兵を出せと云う命令がくだって、豊前ぶぜん中津なかつ藩からも兵を出す。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
元亨げんこうめいある海中出現の鐘、頼朝寄進の薬師堂塔、庵房のあとをめぐって、四角の竹の林から本堂にもうで、それを左へ羅漢道らかんみちにかかると、突然
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お前になんのさかえをも与えることもできないで。恥とわずらいとのみ負わせた。お前がわしの妻子に最後までつくしてくれたことは、わしのきもめいじている。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
毎年宇治のめいを選んで雲上うんじょうたてまつり、「玉露」と名付けてほうを全国に伝ふ。当主を坪右衛門つぼえもんと云ひ一男三女を持つ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それがめいだった。園はその夜拉典ラテン語の字書をひいてはっきりと意味を知ることができた。いい言葉だと思った。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
であるから、僕は如何なる人が、如何なるほどに、僕のために心や身をろうしてくれたか、つぶさに考えて、これを常に心にめいじておきたいと思うのである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
するといままではっきりしなかったかねめいも、だいぶんはっきりしてた。吉彦よしひこさんがちょっとんで
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
そこでその定窯の鼎の台座には、友人だった李西涯が篆書てんしょめいを書いて、りつけた。李西涯の銘だけでも、今日は勿論の事、当時でも珍重したものであったろう。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それでもさすがに底冷たい風が砂ほこりを吹きこんで、名物とめいうった団子がザラザラと舌にさわる。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
とうばんめいいわく、まことに日に新たにせば日々に新たにし又日に新たにせん……こう読むのだ」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ただ、それが稲見家の聖母のせいだったかどうかは、疑問ですが、——そう云えば、まだあなたはこの麻利耶観音の台座のめいをお読みにならなかったでしょう。御覧なさい。
黒衣聖母 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そうしてその甘美な血から咲き出た花は、かれの限りない悲嘆のめいを帯びていた……
言葉ことばの一々を雲飛は心にめいし、やゝ取直とりなほして時節じせつるのをまつた。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
うんよくはまん身代しんだいまんのばして山梨縣やまなしけん多額納税たがくのうぜいめいうたんもはかりがたけれど、ちぎりしことばはあとのみなとのこして、ふねながれにしたがひひとかれて、とほざかりゆくこと、二千、一萬
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いつか、『中央美術』で紹介されたこともあるが、この一毫さんと、まだ一人、中村秋塘なかむらしゅうとうとの二人は、この仲間の人でも同じく、滅多に自分の描いた陶器の裏に九谷とめいを入れることはない。
九谷焼 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「まあ、だいたいこういう心得こころえでご奉公をしてください。生はかたく死はやすし。むやみに命を捨てては困る。ただ精神を忘れなければよろしい。それからこの紙を持って行って座右ざゆうめいになさい」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
こいつをひとつ源内櫛とめいをうって花柳界に流行はやらせてみたら面白かろうとか、それからそれへ、とめどもなくしゃべりつづける。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「わざと筆の軸のめいを切って、善い筆か悪い筆か解らないようにしたが、上等の唐墨を洗い落すのが、少しぞんざいだった」
もちろん飛騨越ひだごえめいを打った日には、七里に一軒十里に五軒という相場、そこであわの飯にありつけば都合もじょうの方ということになっております。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし吾が顔に印せられる痘痕とうこんめいくらいは公平に読み得る男である。顔の醜いのを自認するのは心のいやしきを会得えとくする楷梯かいていにもなろう。たのもしい男だ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「やっと気がついたものと見える」大佐は、通信兵とめいをうった伝声管の前に立って、叫んだ。「戦闘機隊へ通報せい。襲撃陣形をとり、戦闘準備にうつれ」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
めいは別に無いようだがこの文句は銘の代りでもなさそうだ。といって詩でもなし、和歌うたでもなし、漢文でもないし万葉仮名でもないようだ。何だい……これあ……」
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
仕事をする人たちも、自分の名誉にかけて作る風が残り、鑚彫たがねぼりで見事な書体で「土州住国光」とか「豊光」とか「国清」とか、古鍛冶こかじに見られるようなめいを刻むことを忘れません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
七兵衛は目釘を外して、つかを取払い、その切ってあるめいを調べて見ると
一、秋元淡路守殿御壺、めい福禄寿ふくろくじゅ、日坂宿手前、菊川べりにて。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
松平楽翁まつだいららくおう公の書室めいいわく、「寧静ねいせいれ心をやしなう第一法」と。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
かうむり越前守感涙かんるゐきもめいじ有難くそゞろに勇み居たりけり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
有難くきもめいじて聴き
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「わざと筆のぢくめいを切つて、善い筆か惡い筆か解らないやうにしたが、上等の唐墨たうぼくを洗ひ落すのが、少しぞんざいだつた」
「いつかはきっと、今日のお礼まいりにうかがうでしょう。また三巻の天書、四句の天言、それもあわせて心にめいじ、終生決して忘れますまい」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もやゝけて、食堂しよくだうの、しろ伽藍がらんとしたあたり、ぐら/\とれるのが、天井てんじやうねずみさわぐやうである。……矢張やつぱたびはものさびしい、さけめいさへ、孝子正宗かうしまさむね
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「杢兵衛はどうも偽物にせものが多くて、——その糸底いとぞこを見て御覧なさい。めいがあるから」と云う。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
めい東雲しののめ、宇津谷峠にて……と、書き加えられていた。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
聞勘解由は打喜び金子にて相濟あひすむ事なれば何とか取計ひ申すべしシテ其の金高は何程なるやと申に安田佐々木の兩人は右金高はまづ水死すゐし二人の代り金二千兩御道具だうぐの中御太刀一ふりめい來國行らいくにゆき是は別て御大切の御品成ば此代金千兩外御道具代金三百兩都合三千三百兩右の如く借用致されたしと書付を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「ほ。この忠顕ただあきの世話を、お辺は、さまで心にめいじていてくれたか。いや珍重ちんちょうあたいする。近ごろは信義もすたれ、軽佻けいちょうな奴らばかりが多い中でよ」
作は拙劣せつれつで、まず田舎の床の間でなければ通用しないものでしょう。引くり返して裏を見ると、それでも、勢州住人治郎兵衛作とめいが入っております。
石の反橋そりはしである。いわと石の、いづれにもかさなれる牡丹ぼたんの花の如きを、左右に築き上げた、めい石橋しゃっきょうと言ふ、反橋そりはしの石の真中に立つて、一息ひといきした紫玉は、此の時、すらりと、も心も高かつた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「道也た妙な名だね。かまめいにありそうじゃないか」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一、大滝壱岐守殿おん壺、春日野かすがのめいあり。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そして、笛ぶくろから、かれの愛笛——八寒嘯はっかんしょうめいのあるそれを抜いて、たまらない重苦しさから、逃げようとした。
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)