蓬莱ほうらい)” の例文
夫婦めおと岩、蓬莱ほうらい岩、岩戸不動滝、垂釣潭すいちょうたん、宝船、重ね岩、宝塔とう等等の名はまたあらずもがな、真の気魄きはくはただに天崖より必逼ひつひつする。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
朱塗の蒔絵まきえ三組みつぐみは、浪に夕日の影を重ねて、蓬莱ほうらいの島の松の葉越に、いかにせし、鶴は狩衣の袖をすくめて、その盞を取ろうとせぬ。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかしてマルコポロは支那人より伝聞したのであって、支那では秦皇漢武しんのうかんぶ以来日本を蓬莱ほうらい島とし、来って仙を求めたものである。
日本の文明 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
さながら人間の皮肉を脱し羽化うかして広寒宮裏こうかんきゅうりに遊ぶ如く、蓬莱ほうらい三山ほかに尋ぬるを用いず、恍然こうぜん自失して物と我とを忘れしが
良夜 (新字新仮名) / 饗庭篁村(著)
妻籠つまご本陣青山寿平次殿へ、短刀一本。ただし、古刀。銘なし。馬籠まごめ本陣青山半蔵殿へ、蓬莱ほうらいの図掛け物一軸。ただし、光琳こうりん筆。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
人生さいはひにこの別乾坤あり。誰か又小泉八雲こいづみやくもと共に、天風海濤てんぷうかいたうの蒼々浪々たるの処、去つて還らざる蓬莱ほうらい蜃中楼しんちうろうを歎く事をなさん。(一月二十二日)
自分は拒否し切れず、その画塾の近くの、蓬莱ほうらい町のカフエに引っぱって行かれたのが、彼との交友のはじまりでした。
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
かくて、当日吉祥寺裏のお鷹べやから伴っていったはやぶさは、姫垣ひめがき蓬莱ほうらい玉津島たまつしまなど名代の名鳥がつごう十二羽。
桃太郎が鬼が島を征服するのがいけなければ、東海の仙境せんきょう蓬莱ほうらいの島を、つちかまとの旗じるしで征服してしまおうとする赤い桃太郎もやはりいけないであろう。
さるかに合戦と桃太郎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
むかし、余が駒込蓬莱ほうらい町に寓居ぐうきょせしとき、門前に寺の墓地があって、その間を通過せざれば出入ができぬ。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
ここを蓬莱ほうらいの国として、不老長生の薬を探しに来たという徐福は、よほどあわて者だったにちがいない。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蓬莱ほうらいへ使いをやってただしるしかんざしだけ得た帝は飽き足らなかったであろう、これは同じ人ではないが
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
蓬莱ほうらい山が、浮彫りにしてあった。その図を見ると同時に、胸が、じりっと、苦しさに、圧迫された。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
仙丹せんたんに練り上げて、それを蓬莱ほうらい霊液れいえきいて、桃源とうげんの日で蒸発せしめた精気が、知らぬ毛孔けあなからみ込んで、心が知覚せぬうちに飽和ほうわされてしまったと云いたい。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しおの流れと主風の方向とに、今昔の変化は無いかどうか、まだ自分には確かめられぬが、ともかくもここ蓬莱ほうらいの仙郷を夢想し、徐福じょふく楊貴妃ようきひを招き迎えようとした程度に
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
米友が指さす前には、たしかに蓬莱ほうらいに似たような島が浮んでいることは間違いがないのです。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
の、枕直まくらなほしの、宮參みやまいりの、たゞあわたゞしうてぎぬ、かみきつけて産土神うぶすなまへ神鬮みくじやうにしてけば、常盤ときはのまつ、たけ、蓬莱ほうらいの、つる、かめ、ぐりもてずして
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
第二番だいにばんに、車持皇子くらもちのみこは、蓬莱ほうらいたまえだりにくといひふらして船出ふなでをするにはしましたが、じつ三日目みつかめにこっそりとかへつて、かね/″\たくんでいたとほり、上手じようず玉職人たましよくにんおほせて
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
蓬莱ほうらいを飾った床の間には、色々の祝物が秩序もなくおかれてあった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
二十世紀末の地球儀はこの赤き色と紫色との如何いかに変りてあらんか、そは二十世紀はじめの地球儀の知る所にあらず。とにかくに状袋箱の上に並べられたる寒暖計と橙と地球儀と、これ我が病室の蓬莱ほうらいなり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
蓬莱ほうらいや日のさしかゝる枕もと 釣壺
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
蓬莱ほうらい
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
忘る蓬莱ほうらい仙境せんきやうも斯るにぎはひはよも非じと云ふべき景況ありさまなれば萬八樓よりそれたる一同は大門内おほもんうち山口巴やまぐちともゑと云引手茶屋へをどこめば是は皆々樣御そろひで能うこそおいであられしぞ先々二階へいらつしやいと家内の者共喋々てふ/\しき世事の中にも親切しんせつらしく其所そこ其所こゝよと妓樓まがき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
河間王かかんわう宮殿きうでんも、河陰かいん亂逆らんぎやくうて寺院じゐんとなりぬ。たゞ堂觀廊廡だうくわんらうぶ壯麗さうれいなるがゆゑに、蓬莱ほうらい仙室せんしつとしてばれたるのみ。たんずべきかな。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その水の汪々おうおうと流れる涯には、ヘルンの夢みた蓬莱ほうらいのように懐しい日本の島山がある。ああ、日本へ帰りたい。
長江游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
蓬莱ほうらいおきなのように、白髪ながらきれいに櫛を入れて結髪もし、直衣のうしの胸にも白い疎髯そぜんを垂れている。烏帽子えぼし衣紋えもんも着崩さずに、なにかと、客待ちのさしずをしていた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが蓬莱ほうらいへのパスポートとして、十分な時代があったということが推測せられるのである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
安部あべおおしが大金で買った毛皮がめらめらと焼けたと書いてあったり、あれだけ蓬莱ほうらいの島を想像して言える倉持くらもち皇子みこ贋物にせものを持って来てごまかそうとしたりするところがとてもいやです
源氏物語:17 絵合 (新字新仮名) / 紫式部(著)
廊に蓬莱ほうらい重きあゆみかな 友静
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
蓬莱ほうらいふもとの新田干鰯ほしいわし 栄政えいせい
古池の句の弁 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
が、落日に対してまことに気高い、蓬莱ほうらいの島にでも居るような心持のする時も、いつも女中がいていたのに。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あなたの欲しいものは何ですか? 火鼠ひねずみかわごろもですか、蓬莱ほうらいの玉の枝ですか、それともつばめ子安貝こやすがいですか?
二人小町 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
旭日あさひの昇ってくる方角に、目に見えぬ蓬莱ほうらいまたは常世とこよという仙郷の有ると思う考えかたは、この大和島根やまとしまねを始めとして、遠くは西南の列島から、少なくとも台湾の蕃族ばんぞくの一部までに
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
坂東の平野も、甲州、上州の山々も雲の怒濤どとうの中にうかぶ蓬莱ほうらいの島々であった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
門には竹が立てられたり、座敷には蓬莱ほうらいが飾られたりしても、おれんは独り長火鉢の前に、屈托くったくらしい頬杖ほおづえをついては、障子の日影が薄くなるのに、ものうい眼ばかり注いでいた。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おんなもちょいと振向いて、(大道商人あきんどは、いずれも、電車を背後うしろにしている)蓬莱ほうらいを額に飾った、その石のような姿を見たが、むきをかえて、そこへ出した懐炉かいろに手を触って、上手に
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今日けふ御降おさがりである。もつと歳事記さいじきしらべて見たら、二日ふつかは御降りと云はぬかも知れぬ。が蓬莱ほうらいを飾つた二階にゐれば、やはり心もちは御降りである。下では赤ん坊が泣き続けてゐる。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
氏神の境内まで飛ばないと、蜻蛉とんぼさえたやすくは見られない、雪国の城下でもせせこましい町家に育ったものは、瑠璃るり丁斑魚めだか、珊瑚の鯉、五色ごしきふなが泳ぐとも聞かないのに、池を蓬莱ほうらいの嶋に望んで
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)