土手どて)” の例文
さて、屋根やねうへ千人せんにんいへのまはりの土手どてうへ千人せんにんといふふう手分てわけして、てんからりて人々ひと/″\退しりぞけるはずであります。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
久しいあとで、その頃薬研堀やげんぼりにいた友だちと二人で、木場きばから八幡様はちまんさままいって、汐入町しおいりちょう土手どてへ出て、永代えいたいへ引っ返したことがある。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これは左伝輯釈さでんしゅうしゃくを彦根藩で出版してくれた縁故からである。翌年七十一で旧藩の桜田邸に移り、七十三のときまた土手どて三番町に移った。
安井夫人 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
たけちゃんは、ぬれて ぶるぶる ふるえて いる いぬを だいて 土手どてを あがり、やわらかな くさの うえに おきました。
うみぼうずと おひめさま (新字新仮名) / 小川未明(著)
最後の見舞に来てくれたのは演芸画報社の市村いちむら君で、その住居は土手どて三番町であるが、火先がほかへそれたので幸いに難をまぬかれた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
大勢おおぜいの人が松明たいまつをふりかざし、かね太鼓たいこを打ち鳴らし、「おーい……おーい……」と呼びながら、川の土手どてから、こちらへやって来ます。
ひでり狐 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
先刻さつき土手どてときほりとこすべつたんですが、ときかうえによごしたんでせうよ」とおつぎはどろつたこしのあたりへてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
私はその下にうづくまつた。私の周圍には高い草原が土手どてをなしてゐた。岩は頭の上に蔽ひかぶさつてゐた。その上に蒼空があつた。
その一方の土手どてむこう、そとぼりをへだてた城外じょうがいやなぎのかげに、耳に手をかざして、館のなかの騒音そうおんをジッといている者がある。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三人は勇気ゆうきを出して、はだかになりました。そして、土手どての下のよしの中へ、おそるおそる、たらいをおろしてやりました。
いぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
土手どてあがつた時には葉桜はざくらのかげは小暗をぐらく水をへだてた人家じんかにはが見えた。吹きはらふ河風かはかぜさくら病葉わくらばがはら/\散る。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
いくほどにかすみはだんだん深くなりました。そして湖の岸の土手どてまでいくと、湖面こめんはまるでゆめを見ているように、とろんとかすんでいました。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
それ多少たせうまつて、みきすときなぞは、みきからくびすと、土手どてうへあき暖味あたゝかみながめられるやう心持こゝろもちがする。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あれはがけのあつめとしるく土手どてかげそゞろさむげに、をりふしともする三五らうこゑのみ何時いつかはらず滑稽おどけてはきこえぬ。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
緑雨の『おぼえ帳』に、「まぐろ土手どての夕あらし」という文句が解らなくて「天下あに鮪を以て築きたる土手あらんや」
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
地蜂ぢばちといふはちは、よく/\つちのにほひがきとえまして、べたのなかをかけます。土手どてわきのやうなところへ入口いりぐちあなをつくつてきます。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
眞ん中に皿をのこしたかつぱ頭を、柔かな春風になぶられながら、私達は土手どてを東へ、小貝川の野地を駈け下りた。
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
わたしは高い土手どての上に立ち、子供たちと機関車の走るのを見ながら、こんなことを思はずにはゐられなかつた。
機関車を見ながら (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
自尊心の高い男だけに、善兵衞夫婦に合せる顏もなく、トボトボと土手どてを本所の方へ歸つて來ると、後ろからソツと平次の肩に手を置いた者があります。
も云ず拔打ぬきうち提灯ちやうちんバツサリ切落きりおとせば音吉はきやツと一聲立たるまゝ土手どてよりどうまろおち狼藉者らうぜきものよとよばはりながら雲を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さて埴輪はにわ筒形つゝがたのものは、はかをかのまはり、ときにはほり外側そとがは土手どてにも、一重ひとへ二重ふたへあるひは三重みへにも、めぐらされたのであり、またつか頂上ちようじようには家形いへがた
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
ズルスケは、氷が岸にくっついているところから、りくにとびうつりました。そして、土手どてをかけあがろうとしたとたんに、ニールスが大声で呼びかけました。
そして、土手どてにひざまずいて、死ぬ前のおいのりをしようとして、両手をしっかりとにぎりあわせました。その時、知らずにまほうの指輪ゆびわをこすったのでした。
キャラコさんは、土手どて三番町の独逸ドイツ語の先生のところへゆくので、一週間に二度ずつこの家の前を通る。
さて雪頽なだれを見るにさのみにはあらぬすこしのなだれなれば、みちふさぎたる事二十けんあまり雪の土手どてをなせり。
だれがいいだしたのかうなぎがいるといううわさがたってから、子どもたちの熱意は川底に集まり、毎日土手どての見物と川の漁師とのあいだで時ならぬやりとりがつづいた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
その時分じぶんとうのおこのは、駕籠かごいそがせて、つきのない柳原やなぎはら土手どてを、ひたはしりにはしらせていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
きれいな花がさいていたり、古い木が立っていたり、ところどころ、なだらかな土手どてには、ひつじやめうしが、あそんでいました。でも、にんげんの姿は見えませんでした。
親をゆかの下とか土手どての陰とかにかくして置いて、そっと毎日の食物をはこんで養っていた。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そして雪さんの背から子供をおろして、路傍みちばた土手どて芝生しばふの上に腰をかけ、まだ眠っている子を揺り起して、しゃくり込むように泣きながら乳首ちくびを無理に子供の口に押し込んだ。
しか大概たいがい蛇窪へびくぼ踏切ふみきりだい二のせんして、ぐと土手どてのぼつてくのである。
はるか二百メートルをへだてたかなたに十三個の的が土手どての前にならび立っております。こちらから見ると、まるで一点にしか見えません。それほど当日の的は小さかったのであります。
国際射的大競技 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
こんな天気のいゝ時だとおもおこそろは、小生せうせいのいさゝかたぬことあれば、いつも綾瀬あやせ土手どてまゐりて、ける草の上にはて寝転ねころびながら、青きは動かず白きはとゞまらぬ雲をながめて
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
また、紺の股引を買ひに汗だくで歩き廻つたところは、土手どて町といふ城下に於いて最も繁華な商店街である。それらに較べると、青森の花街の名は、浜町である。その名に個性がないやうに思はれる。
津軽 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
土手どてかげに二人来りてひかりむ一人はわれの教ふる学生がくせい
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ぱう小高こだか土手どてると、いまゝでいてかぜむだ。もやかすみもないのに、田畑たはたは一めんにぼうとして、日中ひなかはるおぼろである。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
勘次かんじ村落むら臺地だいちであるのと鬼怒川きぬがは土手どてしの密生みつせいしたちからもつわづかながら崩壤ほうくわいするつちめたので損害そんがいかるんだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
と、二、三十人ほどの手下が、そこへ、ぎとった太刀や陣羽織じんばおりや金をつんでみせると、呂宋兵衛るそんべえ土手どての上からニタリと横目にながめて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今度こんどは、すこしみちからはなれたうえいていました。ちょうどそのしたには汽車きしゃ線路せんろがあって、土手どてがつづいていました。
長ぐつの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
鎮守ちんじゅの森の中をやたらに歩き廻っていた、という者もありますし、川の土手どてをよろよろ歩いていた、という者もありました。
ひでり狐 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
一心に彩筆さいひつをふるっていた春吉君が、ふと顔をあげて南を見ると、学校の農場と運動場のさかいになっている土手どての下に腹ばって、藤井先生が
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
堀割ほりわりづたひに曳舟通ひきふねどほりからぐさま左へまがると、土地のものでなければ行先ゆくさきわからないほど迂囘うくわいした小径こみち三囲稲荷みめぐりいなり横手よこてめぐつて土手どてへと通じてゐる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「そんなつまらねえ話じゃありませんよ。親分も聴いたでしょう、近頃大騒ぎになって居る、土手どてまげ切り」
わたしは憂鬱ゆううつになって来ると、下宿の裏から土手どての上にあがり、省線電車の線路を見おろしたりした。線路は油や金錆かなさびに染った砂利じゃりの上に何本も光っていた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ふゆ月夜つきよなにかに田町たまちあたりをあつめにまわると土手どてまで幾度いくどいたことがある、なにさむいくらゐきはしない、何故なぜだか自分じぶんらぬが種々いろ/\ことかんがへるよ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
物語りしに後藤先生は其若者そのわかもの不便ふびんなれば助けてつかはさんと云れて熊谷くまがや土手どて追駈おつかけゆき駕籠屋かごや惡漢わるもの共をたゝちら此衆このしう夫婦ふうふを御助けなされ八五郎が家へ連て來り疵所きずしよ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
運動場の見わたせる土手どてやなぎの下に立つと、竹一は見あたらず、まっさきにとらえたのは松江だった。松江はなぜかひとり校舎のかべにもたれてしょんぼりしていた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
榛櫟はりくぬぎ、天を指す木は先づ伐られて連雀れんじやく尾長鳥をながどり)の鈴生すゞなりに止まる榎の木も伐り盡された。今は芝のやうな小篠こじのの茂れる土手どてがうね/\と南北に走つてゐるのが見える。
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
やさしい星は斷層をなした土手どての眞上に瞬いてゐた。夜露がりた、慈愛の籠つたやさしさをもつて。微風そよかぜもない。自然は、私の眼には、情け深い親切なものに見えた。
柳原やなぎはら土手どてひだりれて、駕籠かごはやがて三河町かわちょうの、大銀杏おおいちょうしたへとしかかっていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)