あた)” の例文
画人的な構想や要意から作られた画でなく、禅的な心境からむしろ不要意に生れ出たといったほうが、あたっておりはしないだろうか。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ヒはヒノキで従来から通常檜の字がててあるがこれはあたっていなく、檜はイブキビャクシン(略してイブキという)の漢名である。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
養父ちちおやの方が可愛がって片時も離さないとこういう言種いいぐさでね。……父も祖母も、あれにあたられると思うから、相当に待遇するでしょう。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こは深き憂にあたれるが爲めなるべけれど、その憂は貧か戀か、そも/\別に尋常よのつねならざる祕密あるか。これを知るもの絶て無しとぞ。
太い雨が竿さおあたる、水面は水煙を立てて雨がねる、見あげると雨の足が山の絶頂から白い糸のように長く条白しまを立てて落ちるのです。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
美妙斎について実は余り多くを知っていないから、私の憶測があたるか中らないかは請合うけあわないが、試みにその原因を数えようなら
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
しかも総督府から指導のために出張した検事正や、警視連のゆびさす処が一々不思議なほど図星ずぼしあたる。各地の有力者が続々と検挙される。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
婆「酒をつけろたってお前さん無理酒むりざけを飲んではいけないよ、無理酒は身体にあたるから、忰が死んだからってもやけ酒はいけないよう」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「そんな事をいわずに、物は試しだから一口買ってごらんなさい、しかし度々たびたびけません、あたったら一遍こきりでおよしなさい」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
同じ人でも白痴と狂人は何を食べても滅多めったあたりません。それは神経を使わないから胃腸が無神経同様になって下等動物に近いのです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
けれども、不思議な事には決して人にはあたらぬもので、人もなく物も無く、ツマリ当り障りのない場所を択んで落ちるのが習慣ならわしだという。
池袋の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
某時あるとき、村で水莽の毒にあたって死んだ者があったが、死んで間もなく蘇生した。村の者はそれを不思議がった。すると祝が言った。
水莽草 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
一月ひとつきの後、百本の矢をもって速射を試みたところ、第一矢がまとあたれば、続いて飛来った第二矢は誤たず第一矢のやはずに中って突きさり
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
覚めて考うれば口をきかれなかったはもしや流丸それだまにでもあたられて亡くなられたか、茶絶ちゃだち塩絶しおだちきっとして祈るを御存知ないはずも無かろうに
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
亨一の歸りを出迎へたとき、その推想があたつて居ることをさとつた。そして亨一の心中を想ひやつて氣の毒に思ふ心のみが先に立つて居た。
計画 (旧字旧仮名) / 平出修(著)
きのこの毒にあたりて一日のうちに死にえ、七歳の女の子一人を残せしが、その女もまた年老いて子なく、近きころみて失せたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
君の探偵はまぐあたりだ今度の事でも偶々たま/\お紺の髪の毛が縮れて居たから旨く行た様な者の若しお紺の毛が真直だッたら無罪の人を
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
その次に「強い風だ。いよいよこれから死にに行く。たまあたってたおれるまで旗を振って進むつもりだ。御母おっかさんは、寒いだろう」
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
船長はポーチにいて、用心深くだまちをやられてもあたらぬところにいるようにしていた。彼は振り向いて私たちに言った。——
やつくれえばかに運のつええやつアねえぜ。ぶつちゃア勝つ、遊んで褒美ほうびはもれえやがる、鉄砲玉アあたりッこなし。運のいいたやつのこっだ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
それにんずるに其人をえらめば黜陟ちつちよくあきらかにして刑罰けいばつあたらざるなくまことに百姓をして鼓腹こふく歡呼くわんこせしむことわざに曰其人を知らんと欲すれば其の使つかふ者を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
弾丸は三歩程前の地面にあたって、弾かれて、今度は一つの窓に中った。窓ががらがらと鳴って壊れたが、その音は女の耳には聞えなかった。
押砂河岸に上る前に、木下きおろし河岸で朝早く売りに来た弁当を買った。それの刻みするめあたって腹痛を感じたとのみは思えなかった。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
しかして石田君が『晋書』から引かれた衛玠えいかいの死に様は、『南方随筆』に載せた裏辻公風と同じくいわゆる見毒(ナザール)にあたったらしい。
「だってあたし、それじゃ困るわ、今すぐいろいろ入用なものがあるんだから」とそう云ったのも、成る程思いあたるのでした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
所が私は又その測量者があろうとなかろうと、その推測があたろうと中るまいと、少しも頓着とんじゃくなしに相替らず悠々として居ます。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その時、何処からともなく可なり大きな石が飛んできて、身を反らし加減にしている彼の、右の鎖骨の所へはっしとあたった。
電車停留場 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「つまらぬ事を申すな、——幾之助の腹痛は時候あたりでもあろう、深く詮議して、罪の無い膳部係の者を陥れてはならぬぞ」
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
そうして見ると、女房の持っていた拳銃の最後の一弾が気まぐれに相手の体にあたろうと思って、とうとうその強情を張り通したものと見える。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
と、どこから来たものか、四方雨戸をとざしてあるのに、一匹の火捕ひとり虫が飛んで来た。バタバタバタバタと雪洞へあたる。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
玉にあたつて死んだものは、黒羽織くろばおりの大筒方の外には、淡路町の北側に雑人ざふにんが一人倒れてゐるだけである。大筒方は大筒の側に仰向あふむけに倒れてゐた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
されば、更るがわる鈎を挙げて、を更め、無心にして唯あたりを待ちけるに、一時間許りける時、果して鈴に響く。
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
(3) 「ゲエテの偉いのはスケールが大きくて猶且なほかつ純粋性を失はないところにある」と言ふ谷崎氏の言葉はあたつてゐる。これは僕にも異存はない。
物事、道にあたって行われるようになれば、差別も平等も自ずと退いて淡々如々たる位置を守らしめるだけであります。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「年はいかないが見上げたもんだ。いまにきっと状元じょうげんあたるよ。おばさん、おめえ様の福分は乃公が保証しておく」
村芝居 (新字新仮名) / 魯迅(著)
しかしてあたかもつるのしづかならざる先にまとあたる矢のごとく、われらはせて第二の王國にいたれり 九一—九三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
といって大いにののしると、皆の者が怒って「お前のような者と一緒に帰ることは出来ない。ばちあたるから」というと
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
絶望の宣言と堺氏がいったのはその点においてあたっている。兄は堺氏の考えに対する僕の考えをどう思うだろう。
片信 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「うーん、出来るよ。たとへば、一しよに鉄砲や弓をうつて、両方ともあたつたとしても、その中りどころが急所の方が勝ちときめりやいゝぢやあないか」
熊捕り競争 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
「毒死ではない、しょくあたったのだ」と甲斐は云った、「だがその話しはよそう、今宵はおまえたち二人の晩だ、陰気な話しはやめてたのしくやるがいい」
○さて時平が毒奏どくそうはやくあたりて、同月廿五日左降さがう宣旨せんじ下りて右□臣のしよくけづり、従二位はもとのごとく太宰権帥だざいごんのそつとし(文官)筑紫つくし左遷させんに定め玉へり。
馬場はまた弓射場にもなっているので、月に幾日か弓袋を持った人が出入して、的にあたる矢の音が聞えます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
ほんとうに課長の言うことは、あたっていたのである。怪人丸木は、たしかに千二を途中でさらっていった。
火星兵団 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼らの説が悉く正鵠にあたっているとはいい難く、彼らの間にも種々意見をことにしている点が少なくなく
神代史の研究法 (新字新仮名) / 津田左右吉(著)
すなわち、その屋根の鉛が、幾万の小銃の銃身から発射されて、それにあたった人々の死体の眼から、永久に、空を見えぬように遮る、という新しい方法である。
かえって日本の銃砲があたる。向うの銃砲の弾丸は少しもあたらぬ。そこであの時は一度誤ったが、どうしてなかなかまだ今度の独逸ドイツの如き力とはよほど違っていた。
吾人の文明運動 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
髪を短く刈った時の感じにたとえたら、あたらずといえども遠からずということになりはしないだろうか。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
矢にあたって負傷したもの二百四十五人に対して、溺死者千三十六人、裸になってやっと泳いで帰ったもの千二百五十七人という様な、大醜態を演じた程でありました。
本州における蝦夷の末路 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
つひ隊長たいちやうにんりてもつとなへ、其次そのつぎもつ隊長たいちやうす。ここおいこれす。婦人ふじん(九)左右前後跪起さいうぜんごききみな(一〇)規矩繩墨きくじようぼくあたり、あへこゑいだすものし。
指はいつもの薪よりは容易たやすく切れて、いつもの薪と同じやうに翻筋斗とんぼがへりをして台の縁にあたつて土間に落ちた。指の痛をまだ感ぜないうちに、指の地に落ちた音が聞えた。