麝香じやかう)” の例文
長い廊下の果に、主人の花紋くわもんいんした上衣うはぎの後影が隠れた。上衣の裾はかろく廊下の大理石の上を曳いて、跡には麝香じやかう竜涎香りうえんかうとの匂を残した。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
「なら、プンプン麝香じやかうを匂はせた板倉屋が、側へ寄つて自分の刀を拔くのを待つて居る筈はねえ。白旗直八は自分の腰の物で刺されたんだぜ」
立つて箪笥の大抽匣、明けて麝香じやかうと共に投げ出し取り出すたしなみの、帯はそも/\此家こゝへ来し嬉し恥かし恐ろしの其時締めし、ゑゝそれよ。
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
この石にみこんだ麝香じやかうか何かの匂のやうに得体えたいの知れない美しさは詩の中にもやはりないことはない。
私にしてもあの女に人をきよめる徳なんぞがあらうとは一度だつて考へなかつたことです。それは神聖な薫りといふよりも、彼女が殘して行つた香晶か何かの麝香じやかうとりうぜんかうの匂だつたでせう。
ああ皐月さつき、——雲の麝香じやかう
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
もろもろの麝香じやかうのふくろ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
麝香じやかうなでしこ、鈴蘭すゞらん
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ほのかなる麝香じやかうの風のわれにふく紅燈集の中の国より
芥川竜之介歌集 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ねや麝香じやかうの息づかひ。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
もたらしし麝香じやかうほぞ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)