魔形まぎょう)” の例文
喬木の魔形まぎょうが雲のはやい空に揺れて、唸っている。足場の人影は、あわただしく、活溌になって、木ッ葉や、鉋くずが、地に舞った。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そのとおりだ。さりとて宮の高いご位置にあって、その魔形まぎょうやからを自由自在にお使いあるにはどうにもならぬ。この尊氏はどうしたらいいのか」
と、言い返して、木戸へ、肩をぶつけて突き破るがはやいか、地を躍って、深い闇へ、魔形まぎょうに似たがたなの光を、何処ともなく、くらましてしまった。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、八万八千の魔形まぎょうが、火となり煙となって、舞いおどるほのおのそこに、どんな地獄じごくが現じられたであろうか。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
叫んで、再び起ちかけた時は、もう平四郎の姿は、草露の光る彼方へ、跳る魔形まぎょうのように、馳け去っていた。
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのほか一味の乾分こぶんと名のつくともがら、あとから後からと姿をあらわして、魔形まぎょう一列を成すかと思われましたが、十二、三人目に出てきたお人好しの率八を殿しんがりとどめとして
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奸智にけているとみえて、その自然の気象を、自己の妖術かの如く、巧みに使って、わら人形の武者や、紙の魔形まぎょうなど降らせて、朱雋軍の愚かな恐怖をもてあそんでいたものであろう
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山屋敷いちめんの畑や蔵や役宅やうずめ門や、すべての黒いものの影へ、おびただしい落葉をフリいて、同時に、塀ぎわで散らかッた十数人の魔形まぎょうの行方を知れないものとしてしまいました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
五名の魔形まぎょうの者が諸声もろごえあわせていどみかかっているのだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)