駈抜かけぬ)” の例文
旧字:駈拔
けれども車夫は足が早いのですから、とても駈抜かけぬけられないと思った時は、途中にある横道の河合の蔵の蔭に這入って遣り過します。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
あるときなど夕暮れ近くなって矢も尽きかけた二人が——二人の馬は供の者をはるかに駈抜かけぬいていたので——一群の狼に囲まれたことがある。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「見ねえ、一番、尻尾を出させる考えを着けたから、駈抜かけぬけて先へ来たんだ。——そら、そら、来たい、あの爺だ——ね。」
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鴨橋かもはし(今の結城ゆふき新宿しんじゆく村のかま橋)から急に駈抜かけぬけて注進したため、危くも将門は勝を得てしまつた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
勢ひでかどより曲り来にければ、避くべき遑無いとまなくてその中を駈抜かけぬけたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
この時、塚田巡査を先に四五人の追手おってが裏口へ廻って来た。素足で雪の中を駈けて行くお葉の姿を不思議と見たのであろう、巡査は角燈かくとうかざして呼び止めたが、お葉は聞かぬふりをして駈抜かけぬけてしまった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あまり嫌ですから、水戸邸の方から行ったこともありましたが、道のりが倍もあって寂しく、それに時間もかかりますので、仕方なしに駈抜かけぬけるのでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
「時に何かね、今此家ここの前を車が二台、旅の人を乗せて駈抜かけぬけたっけ、この町を、……」
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)