面輪おもわ)” の例文
我々はかう云ふ旺盛なる「我」に我々の心を暖める生命の炎を感ずるのである。或は我々の到達せんとする超人の面輪おもわを感ずるのである。
僻見 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
男は不審な顔付になって、月の光に相手の面輪おもわすかし見ました。そして呆気あっけにとられて手の種ヶ島を取落しました。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
圖するところはヂドに扮したるアヌンチヤタが胸像なりき。氣高けだかうるはしきその面輪おもわ、威ありてけはしからざる其額際、皆我が平生の夢想するところに異ならず。
女の人がちょっと出て行って、今度帰って坐った時には、向き合いになってももう面輪おもわが定かに見えない。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
そのうすら明りの中に匂うほのじろいものが始めて接するその人の面輪おもわであることが分ると、時平は自分の計畫がいみじくも此処まで運んだことに云いようのない満足をおぼえた。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼女の眼は、たいていは軽く細目になっているのだったが、それが時たまいっぱいに見開かれると——顔つきがすっかり変ってしまって、まるでその面輪おもわに光がみなぎりあふれるように見えた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
閉ぢしみ眼ひらくただちを咲きまふ少女が面輪おもわこよなかりしと
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
孫との乾いた面輪おもわをこちらに向かせ
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
もの知りの長き面輪おもわに秋立ちぬ
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
君が面輪おもわの美しき見れば
学生と生活:――恋愛―― (新字新仮名) / 倉田百三(著)
今は焼けただれた面輪おもわにも、おのづからなやさしさは、隠れようすべもあるまじい。おう、「ろおれんぞ」は女ぢや。「ろおれんぞ」は女ぢや。見られい。
奉教人の死 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)