雞頭けいとう)” の例文
蒼白い死の色の漂うなかに鉢植えの雞頭けいとうの花ばかりが燃えさかる生の色をめざましく日光に耀かがやかしている。
母の死 (新字新仮名) / 中勘助(著)
庭先の雞頭けいとう葉雞頭はげいとうにさへ霧かかりて少し遠きは紅の薄く見えたる、珍しき大霧なり。余は西枕にて、ガラス戸にやや背を向けながら、今母が枕もとに置きし新聞を取りて臥しながら読む。
明治卅三年十月十五日記事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
撫子なでしこ石竹せきちく桔梗ききょう、矢車草、風露草、金魚草、月見草、おいらん草、孔雀草、黄蜀葵おうしょっき女郎花おみなえし男郎花おとこえし秋海棠しゅうかいどう、水引、雞頭けいとう、葉雞頭、白粉おしろい鳳仙花ほうせんか紫苑しおん、萩、すすき、日まわり、姫日まわり
薬前薬後 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
碧梧あおぎりこずえが枝ばかりになり、芙蓉ふようはぎ雞頭けいとうや、秋草あきぐさの茂りはすっかり枯れしおれてしまったので、庭中はパッとあかるく日が一ぱいに当って居て、かつて、小蛇蟲けらを焼殺やきころした埋井戸うもれいどのあたりまで
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
おとといの野分のわきのなごりか空は曇って居る。十本ばかり並んだ雞頭けいとうは風の害を受けたけれど今は起き直って真赤な頭を揃えて居る。一本の雁来紅はげいとうは美しき葉を出して白い干し衣に映って居る。
飯待つ間 (新字新仮名) / 正岡子規(著)