隠士いんし)” の例文
旧字:隱士
ころもは禅僧の如くみずから縫い酒は隠士いんしを学んで自ら落葉をいて暖むるにはかじというような事を、ふとある事件から感じたまでの事である。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
もっとも拙者の主人事は、世に有名な隠士いんしでござって、名前を明かさばお手前においても必ずご存じとは存じ申すが、拙者はほんのそのお方の走り使いのいわば使童こもの
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
隠士いんし竹中半兵衛像を一気に描きあげてしまい、なに思ったか、それを早暁、松琴尼の許へとどけると、すぐその足で、ひと月余り客遊していた菩提山のふもとを辞し、例によって
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
建文帝かくの如くにして山青く雲白きところに無事の余生を送り、僊人せんにん隠士いんし踪跡そうせき沓渺ようびょうとして知る可からざるが如くに身を終る可く見えしが、天意不測にして、魚は深淵しんえんひそめども案に上るの日あり
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
悟浄の不安げな面持ちを見て、これを慰めるように隠士いんしは付加えた。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
腰を下ろした侍は、元天満与力てんまよりきの常木鴻山こうざん、在役当時の上役で、同じ時に、同じ譴責けんせきをうけた人。以来不遇の隠士いんし同士、互に心をあわせて、密かにある大事をのぞんでいる仲であった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また、おりふしおとずれた白髯はくぜん高士こうし意見いけんもここにくわわっているのである。その高野の僧の名は明かしがたいが、高士の名はあかしてもよい。それは、鞍馬くらま隠士いんし僧正谷そうじょうがたに果心居士かしんこじである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「土地の者です」とのみ答えて——「これから二、三十里ほど谷の奥へ奥へ分け入ると、さらに五峰のふところに万安渓ばんあんけいというやや広い谷間がある。そこに人呼んで万安隠者という隠士いんしがおりまする。 ...
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)