隔世かくせい)” の例文
もっとも、自分は大学生として、最もつましい生活をして居たには違ない。が、食と住とが僅か十円以下で足りたかと思うと、隔世かくせいの感がある。
天の配剤 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
何しろ大川を隔てて見ても、この前、武蔵が見た江戸とは、家々の屋根がえていることや、緑が目立って減っていることだけでも、隔世かくせいの感があった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
入学難の声の高い今日から見ると、私の中学時代は隔世かくせいの感がある。三十何年前、私の郷里の○○町に初めて中学校の出来た頃は入学試験どころの沙汰でなかった。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
江戸から東京への移り変りは全く躍進的で、総てが全く隔世かくせいの転換をしている。
亡び行く江戸趣味 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
私の旅はほぼ日程の通りにはかどった。聞けばこの頃はあの伯母ヶ峰峠の難路にさえ乗合自動車が通うようになり、紀州のもとまで歩かずに出られるそうで、私が旅した時分とはまこと隔世かくせいの感がある。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
十七年の杉の成長としては思わしくありませんが、二尺の苗の昔を思えば隔世かくせいの感があります。私共の村住居むらずまい年標ねんひょうとして、私は毎々まいまいお客に此杉の木をゆびさします。年標の杉が太り、屋敷も太りました。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
いわゆる隔世かくせいの感というのは、全くこの時の心持であった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「戦の仕様も、変って来たなあ。鉄砲という新しい武器が、急激に変えてきたのだ。桶狭間おけはざまの合戦とこんどの大戦とを、思いあわせれば、隔世かくせいかんがある」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時頼や泰時やすときが、障子のツギりをしたり味噌をなめて、みずからの生活を節し、士風をいましめ、済民や水治の善政に心していた時代にくらべれば、あまりに隔世かくせいの感がある。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、隔世かくせいの感をかこって、ようやくここも華奢きゃしゃならんとする町の風をいましめるのであった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)