ひかり)” の例文
銀色の翼がひかりをうけて翻ると、金色に光つて、上を下へと、さながら三羽の金翅鳥カルラが戯れてゐるかのやうなきらびやかな長閑さに見えた。
岬の春霞 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
私は、妻の肩に腕をのせて、車がしげしげと曲る毎に、冬子の、白い顔にひかりがフラツシユするさまを、うつとりと眺めてゐた。
波の戯れ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
その古い/\歴史を遡るには、こんな春のひかりを浴びながらでは、呼べば直ちに応へる——といふ風には、何事も返答出来なからうぢやないか。
R漁場と都の酒場で (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
はつきりと、もう明け放れてひかりの金色の箭が山の頂きを滑つて、模型と化してゐる水車の翼に戯れながら、川岸の草々の露を吸ひとつてゐた。
バラルダ物語 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「不安は事物に対する吾々の臆見がもたらすのであつて、事物それ自体に不安の伴ふ暇はない。」——こいつは真理だ。野に出でゝ、ひかりを浴びよ。
なるほど、飴色のひかりが隈なく満ち溢れてゐた。開け放された窓から射し込んだ光りが、一杯私の顔にまであたつてゐた。
環魚洞風景 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
微かな風もなかつたが、海の上から溢れて來るやうなひかりの肌ざわりは、それこそ深々とした毛皮か、鳥の羽毛にくるまれてゐるやうな物柔らかさだつた。
痴日 (旧字旧仮名) / 牧野信一(著)
むつと噎せ返して来る和やかなひかりにあをられると、人心地もなく、さんらんたる夢に酔ひ痴れてしまつてゐた。
心象風景 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
愚昧な心の動きを、狡猾な昆虫に譬へて、木の葉にかくれ、ひかりを見ず、夜陰に乗じて、滑稽な笛を吹く——詩を、作つて悲し気な苦笑を洩らしてゐた頃だつた。
或る日の運動 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
丘に反射する雨のやうなひかりが眼ぶしく明る過ぎて、武一の姿だけが、見霞むデイライト・スクリーンの真ン中にぽつんとシルエツトになつて映り出てゐるので
南風譜 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
さんらんたるひかりにも豪華な翼を空一杯に伸べ拡げてうらうらとまどろんでいるが、それに引きかえ
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
またひかりの道がさへぎられて濛ツと煙りが巻いてゐる見たいな廊下の行手には、燭台を翳しておづ/\と私をさしまねいてゐるヘレナの幻が揺曳してゐるのであつた。
鬼の門 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
またひかりの加減に依つては大蛇が雲を呼んだやうに見える仁王の腕の影が、帷の一方から天井に抜けて駆け登つてゐることもあるし、脚もとのスクリーンに、ぱつと開かれた仁王の掌が
ダニューヴの花嫁 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
天井の隅に、小さい四角なひかりがひとつ、ゆるやうにキラキラと光つてゐた。湯槽ゆぶねの上の明りとりから射し込んだ陽が、反対の壁にかゝつてゐる鏡に当つて、其処に反映してゐるのだつた。
明るく・暗く (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
雨戸が閉つてゐても、八方からひかりが洩れてゐる歪んだ家の中はがらんとして明るかつた。もう彼等のものと云つては小箱ひとつもなく、綺麗に掃き清められて、まつたくの空家に等しかつた。
裸虫抄 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「シユウル・レアリスト……ひかりに酔つ払つたな!」
サンニー・サイド・ハウス (新字旧仮名) / 牧野信一(著)