降口おりくち)” の例文
下に階梯はしご降口おりくちがあるのを見ると、灯火あかりが障子へさして座敷がありそうに思いましたから、手灯てともしを吹消して階梯段を降りて参りまして
二階は梯子はしご降口おりくちからつづいて四畳半の壁も紙を張った薄い板一枚なので、裏どなりの物音や話声が手に取るようによく聞える。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
村はずれの坂の降口おりくちの大きな銀杏いちょうの樹の根で民子のくるのを待った。ここから見おろすと少しの田圃たんぼがある。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
目白坂の降口おりくちに、紺暖簾こんのれんを深々と掛け連ねて、近頃出来ながら、当時江戸中に響いた「唐花屋からはなや」という化粧品屋、何の気もなく表へ出した金看板を読むと、一枚は「——おん薬園へちまの水——」
しばらく窓に腰をかけて何ともつかぬ話をしていたが、主人あるじ夫婦は帰りそうな様子もない。そのうち梯子の降口おりくちにつけた呼鈴が鳴る。馴染の客が来た知らせである。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
劇場しばいでいたす廻り舞台のようにぎゅーとひらきまして、不思議のことゝあとへ下りますと書棚の下に階梯はしご降口おりくちがありまして、あゝこんな所に階梯の降口はない筈だが
それより床山を間にして間口まぐちはなはだひろきものはすなわち菊五郎の室にして隣りは片岡市蔵かたおかいちぞうそれよりやがて裏梯子の降口おりくちに秀調控へたりき。三階は相中大部屋あいちゅうおおべやなればいふに及ばざるべし。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
切支丹坂より茗荷谷みょうがだにのあたりには知れる人の家多かりき。今はありやなしや。電車通を伝通院の方に向ひて歩みを運べば、ほどなく新坂しんざか降口おりくちあり。新樹のこずえに遠く赤城の森を望む。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)