陋巷ろうかう)” の例文
如何なる才人も諸君の為に門前払ひを食はされたが最後、露命さへ繋げぬのに違ひない。この故に尾形乾山は蕭条せうでうたる陋巷ろうかうに窮死した。
大久保湖州 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
このたびの我が旅故郷の閑古鳥かんがためとも人に云ひぬ。塵ばみたる都の若葉せはしさ限りもなき陋巷ろうかうの住居に倦み果てゝとも云ひぬ。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
果して天下をあげてかくのごとき挙に賛意を表してゐる、かみは廊堂の大官より下は陋巷ろうかうの文士に至るまで、みな高見をのべてその徳をたゝへて居る。
翻訳製造株式会社 (新字旧仮名) / 戸川秋骨(著)
然れどもわれはむしろ十返舎の為になかざるを得ざる悲痛あり、彼の如き豪逸なる資性を以て、彼の如きゼヌインのウイットを以て、而して彼の如くに無無無の陋巷ろうかうに迷ひ、無無無の奇語を吐き
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
ひさごや瓢やわれ汝を愛す、汝かつて愛すがん氏の賢を、陋巷ろうかうに追随して楽しみを改めず、なんぞ美禄を得て天年を終らざる、天寿命あり汝の力にあらず、功名また驥尾きびに付す、瓢や瓢やわれ汝を愛す
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
或時は黄塵煙の如き陋巷ろうかうに籠り、或時は故郷を忍ぶたつきありと物静かなる郊外に住みつる事もありき。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
我がリヒヤード・ワグネルも亦、愛妻ミンナと愛犬ルツスをひきゐ、飄然へうぜんとして祖国を去つて巴里パリーに入るや、淋しき冷たき陋巷ろうかう客舎かくしやにありてつぶさに衣食の為めに労苦をめぬ。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)