闇路やみじ)” の例文
鯖名といふ温泉にて雨にふられ、旅のうさ今更覚えけるを、廓ありと聞きて、宿屋の庭下駄に知らぬ闇路やみじ踏んで、凌霄のうぜんかずら咲く門に這入りける。
(新字旧仮名) / 正岡子規(著)
それが、たださえ暗い胸の闇路やみじを夢のようにたどっている人間だとすれば、これはむしろ当然すぎるほど当然なことである。
蒸発皿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
悪戯いたずらこうじて、この節では、唐黍とうもろこしの毛の尻尾しっぽを下げたり、あけびを口にくわえたり、茄子提灯なすびぢょうちん闇路やみじ辿たどって、日が暮れるまでうろつきますわの。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『——では、その夏、荒川の堤へ、螢狩りに行って、あの帰るさ、闇路やみじを戻りながらの言葉は』
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
少しく光明を得ていた眼が、再び無明むみょう闇路やみじに帰ったのも、その時からでありました。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
されど我を煩悩ぼんのう闇路やみじよりすくひいで玉ひし君、心の中には片時かたときも忘れはべらず。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
庭を越えて、宮の台なる三重の塔をめぐって駅路へ行く路、或いは動き、或いは動かず、しかしながら闇路やみじを縫うて、おもむろに下りて行くのは、まぎれもない駅路への一筋路であります。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
煩悩の闇路やみじよりすくいいでたまいし君、心の中には片時も忘れ侍らず
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「まッ暗だア、色情いろ闇路やみじ
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)