酒菰さかごも)” の例文
しかも、頭から酒菰さかごもをかぶって、まるで乞食こじきのような風態をしているのに、親方はばかに親切に世話をしていました。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あまりの不憫ふびんさに無常を感じ、法体となって名を蔵主ぞうすと改めたと見しは夢、まことは野原の妖狐にあべこべに化かされて、酒菰さかごも古畳ふるだたみ袈裟けさころもだと思っていたという筋である。
仇討たれ戯作 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そういわれると、対手あいては急に、穴へでも入りたそうにうつむいた。酒菰さかごもをかぶっているので人相はわからないが、とにかく、乞食であることは、一目で分る。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
啓之助はうなずいて、酒菰さかごもに肩をつつみ、周馬の潜伏している土佐堀の蔵屋敷へ向って飛んで行った。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
酒菰さかごもをかぶって蔵屋敷の用水桶のかげに、犬のように寝ている中に、土佐堀の櫓韻ろいん川面かわもからのぼる白い霧、まだ人通りはないが、うッすらと夜が明けかけてくる。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、贈ってくれる者もあるし、わざわざ鎖帷子くさりかたびらを届けてくれる者だの、また、台所へは、大きなたい酒菰さかごもが何処からか運ばれて来るし、巌流は身の置所おきどころもなかった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
加山耀蔵ようぞう鉄砲笊てっぽうざるをかついで紙屑屋かみくずやに化け、波越八弥はどこから見つけて来たかと思うほどひどいボロを着こんで、頭から酒菰さかごもをかぶり、うまうまと非人ひにんに変装した。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は、そんな雪の夜も、道で拾った酒菰さかごもを頭から被って、蹌踉そうろうと、軒下から軒下を歩いていた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今から一月半ばかり前に、法月弦之丞とお綱という奴が、酒菰さかごもに身をつつんで、小雨のふる闇にまぎれて、大勘の家へ来たという図星まで、スッカリお調べが上がっているのだ。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)