遣繰やりく)” の例文
一種の金券を職工に渡して遣繰やりくつてゐるが、それが紙幣類似証券取締法に牴触ていしよくするといつてやかましくなつてゐる。
どこをどう遣繰やりくったか、とにかく金博士始末計画がうまく軌道きどうにのって動きだしたのは、その年の秋も暮れ、急に寒い北西風がちまたを吹きだした頃のことである。
そういったわけでもないですがね、……兄さんには解らんでしょうが、遣繰やりくり算段一方で商売してるほど苦しいものはないと思いますね。朝から晩まで金の苦労だ。
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
物のたとえがここにござる、金公などを御覧ごろうじろ、器用一辺で、あっちへ遣繰やりくり、こっちへ遣繰り、キュウキュウひど工面くめんをしながら打っている、それで年中ピーピー苦しみ通しで
偶々たまたま持っていた一せきの汽船が、幸運の緒をつむいで極端な遣繰やりくりをして、一隻一隻と買い占めて行った船が、お伽噺とぎばなしの中の白鳥のように、黄金の卵を、次ぎ次ぎに産んで、わずか三年後の今は
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そして友人の助力などで、とにかく其の古屋に永久落着くことになつて、一時ほつとしたのであつたが、それだけの室数では、うにも遣繰やりくりのつかないことが、その後一層彼の頭脳あたまを悩ました。
風呂桶 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
私はまた私で、何です、なまじ薄髯うすひげの生えた意気地のない兄哥あにいがついているから起って、相応にどうにか遣繰やりくってかれるだろう、と思うから、食物くいものの足りぬ阿母を、世間でも黙って見ている。
女客 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
言ってはいけない、食べるためには、釜よりは米がさきだぜ、米が有っても釜がないという時には、何とか遣繰やりくりはつくだろうが、釜がこの通りグラグラ沸き出しているのに、米がないでは、食べて行けないじゃないか
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)