遠吠とおぼ)” の例文
ふたりのどもは、みちうえでであった、おばあさんにかって、ちょうど、臆病犬おくびょういぬが、遠吠とおぼえをするときのように、ののしっているのでした。
戦争はぼくをおとなにした (新字新仮名) / 小川未明(著)
それが漸次ぜんじに地にひれ伏すうめきのように陰にこもり、太い遠吠とおぼえの底おもくうねる波となり、草叢くさむらを震わせる絶え絶えな哀音に変ったかと思うと
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)
またさらに力あるとも認められぬと思うと、悪口を受けても苦痛でなく、犬の遠吠とおぼえぐらいに聞こえる。ちょっとは耳にさわっても、あとに残らない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「ウフフフフフ、君はまだ、負け惜しみを言っているんだね。そんな遠吠とおぼえなんぞ、なんの役にも立ちやしないよ」
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それは金の声であった。哀号、哀号、と叫び立てる声がやがて、うおーッうおーッというような声に変って行く。それは何かけだものの遠吠とおぼえにも似たものであった。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
はるかにおおかみが凄味の遠吠とおぼえを打ち込むと谷間の山彦がすかさずそれを送り返し,望むかぎりは狭霧さぎり朦朧もうろうと立ち込めてほんの特許に木下闇こしたやみから照射ともしの影を惜しそうにらし
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)