さす)” の例文
土匪はさすがに、あの世へ持って行けない金銀の器物はほしがらなかった。ひたすら、酒か、菓子か、果実か、煙草を要求した。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
昨夜はさすが不死身の僕も、速水と連れ立って、「深夜の市長」の待っているこの高塔まで辿りついたときはヘトヘトになってしまったのだった。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それでも——さすがにまだ呼吸いきのある病馬を、見捨てかねるように、四、五人の足軽は後に残って、水を浴びせたり、薬をませたり、手当していた。
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
然うなると周三はさすがにうちかへりみて心にづる、何だか藝術の神聖をがすやうにも思はれ、またお房に藝術的良心りやうしん腐蝕ふしよくさせられるやうにも感ずる。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
空気にるるや否や、一面に青き火となり、今や大事に至らんとせしを、安藤氏来りて、直ちに消し止めたり、さすがは多年薬剤を研究し薬剤師の免状を得て
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「お前があめの羽衣の隠してあるとこを教へたりなんかするから、おふくろつちまつたんだよ。だがの女はさすが天の者だけに子供の可愛いことを知らんと見える、人情がないね。」
子良の昇天 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
と出て来た山鹿も、一瞬、不快な顔をしたが、さすがに、なく
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
さすがに堅きを誇る鋼鉄製の扉も、この高熱火焔に会っては一とたまりもなく、パチパチと火花は四方に飛散し
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
つけなすッたのも、さすがに、鋭い。年は若いが、あれなら、吉良殿の付人つけびととして申し分はない。腕では、赤穂の浪士のうちでも、丈八郎ほどなのは少ないだろう
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さすがの動坂一派の荒武者どもも、この豪快な金庫の鍵?の使い方にすっかり度肝を抜かれた形で誰一人声を立てる者もなかった。——待望の扉は除かれた。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
カオルはさすがにパッとひとみを輝かし、十五、六年ぶりに瞼の父に会える悦びに我を忘れているようであった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)