いく)” の例文
「そんな平気な事で、いくさが出来るかい」と女は、委細いさい構わず、白い顔を久一さんの前へ突き出す。久一さんと、兄さんがちょっと眼を見合せた。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
弥陀如来の本願で念仏するものは悪道に落されず迎えとられるのだ。念仏をすることは一騎当千の強者になるよりもえらいことだぞ。お前もいくびとなんぞは早く止めて念仏をしろ念仏をしろ
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ナポレオンの様なこの方面の天才ですら、夜打朝懸ようちあさがけいくさの懸引かけひきに興味はつてゐたかも知れないが、たゞ戦ひたいから戦つたのだとは受け取れない。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
花も春も余所よそに見て、只心の中に貯えたる何者かを使い尽すまではどうあっても外界に気を転ぜぬ様に見受けられた。武士の命は女と酒といくさである。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「軍人がいくさで死ぬのは当然の事である。死ぬのは名誉である。ある点から云えば生きて本国に帰るのは死ぬべきところを死にそくなったようなものだ」
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
武士の命を三ぶんして女と酒といくさがその三カ一を占むるならば、ウィリアムの命の三二は既に死んだ様なものである。残る三分一は? いくさはまだない。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
不断は帆柱の先に白い小旗を揚げるが、女が乗ったら赤にえさせよう。いくさは七日目の午過からじゃ、城を囲めば港が見える。柱の上に赤が見えたら天下太平……
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そうだろう、僕なんざいくさに出なくっても忘れてしまわあ」
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「久一さん、いくさは好きか嫌いかい」と那美さんが聞く。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)