薬罎くすりびん)” の例文
枕元には薬罎くすりびんや検温器と一しょに、小さな朝顔の鉢があって、しおらしい瑠璃るり色の花が咲いていますから、大方おおかたまだ朝の内なのでしょう。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし、そこにはピロカルピンの薬罎くすりびんはあっても、それにはどこぞと云って、手を付けたらしい形跡はなかった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
こういう風で十日ばかりった。或日細川は学校を終えて四時頃、丘のふもとを例の如く物思に沈みつつ帰って来ると、倉蔵に出遇であった。倉蔵は手に薬罎くすりびんを持ていた。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
裏の山から腕いっぱい花をかかえて帰ってくる看護婦に分けてもらって薬罎くすりびんにさした竜胆りんどう鈴蘭すずらんなどの小さな花のかおりをかぎながら、彼は生き生きとした呼吸をし出した。
恢復期 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
薬罎くすりびん載せたる円卓ゑんたくのはしにひぢつきながら
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
美華禁酒びかきんしゅ会長ヘンリイ・バレット氏は京漢けいかん鉄道の汽車中に頓死とんししたり。同氏は薬罎くすりびんを手に死しいたるより、自殺の疑いを生ぜしが、罎中の水薬すいやく分析ぶんせきの結果、アルコオル類と判明したるよし。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
富岡老人は床に就いていてその枕許まくらもと薬罎くすりびんが置いてある。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)