おゝ)” の例文
それから間もなく洛中らくちゅうの空に黒雲がおゝひろがって大雷雨が襲来し、風を起しひょうを降らして、宮中の此処彼処こゝかしこに落雷した。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そう云うと夫人は、厠の床に惜しげもなく両手をついて、ゆたかな黒髪におゝわれた高貴なつむりを心から青年の前に下げた。
両側から路の方へおゝいかぶさっている草を掻き分けながら行くので、たもとすそもしたゝか露に濡れて、つめたいしずくが襟もとまで沁み入るのであった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
崖の上からはかえでと松が参差しんしと枝をさしかわしながら滝の面へおゝいかぶさっているのであるが、けだし此の滝は、さっきの音羽川の水を導いて来て、こゝへき入れたのであろう。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
河内介は例の如く石崖の下のさびしい場所へやって来て、木の根に腰をかけながら茫然としていたが、彼の眼は自らその石崖の上にそびえ立つ土塀をえて、鬱蒼うっそうおゝいかぶさっている奥庭の森のこずえ