つた)” の例文
町もつじも落ち葉が散り敷いて、古い煉瓦れんがの壁には血の色をしたつたがからみ、あたたかい日光は宮城の番兵のかぶとに光っておりました。
先生への通信 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
植物のつたが、まるでたこあしのようにぐらぐらと動きまわって、どこかにまきつく棒とか縄とかないかと、しきりにさがしもとめている有様がうつっていた。
火星兵団 (新字新仮名) / 海野十三(著)
新谷町から千束町象潟町にかけての広い意味での「公園裏」……つたのように伸び、花びらのように密集したそれらの町々、そこにわたしの「新しい浅草」はうち立てらさた。
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
つたからむ、いばらとげは袖を引く、草の実は外套からズボンから、地の見えぬまで粘りつく。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
場所は尾花沢から暗闇谷といわれる谿谷けいこくへさがったところで、三百尺もある断崖だんがいに、つたかずらで猿のかようほどの桟を渡し、それを伝ってなお谷へ下るという、まったく孤絶した位置にあった。
おばな沢 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)