蒐集しうしふ)” の例文
元来僕は何ごとにも執着しふぢやくの乏しい性質である。就中なかんづく蒐集しうしふと云ふことには小学校にかよつてゐた頃、昆虫の標本へうほんを集めた以外に未嘗いまだかつて熱中したことはない。
蒐書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
池田氏は名代の切手蒐集しうしふ家である。今の英国皇帝は世界切つての切手道楽で聞えた人だが、池田氏の集め方は、英国皇帝のとはずつと毛色がちがつてゐる。
勘兵衞殺しの下手人と睨んで、一生戀命證據の蒐集しうしふに浮身をやつして居る矢先、肝腎の又六が殺されて了つては、平次は全く脊負投しよひなげを喰はされたやうなものです。
加ふるに閑少なく、書籍の便なく、事実の蒐集しうしふ思ふに任せぬことのみなるべければ、独断的の評論をなす方に自然傾むき易きことも、た予め諒承あらんことを請ふになむ。
いわく、『南洋研究の資料蒐集しうしふ、或ひは科学的観察ならば、又、他に人もあるべし。読者のR・L・S・氏に望む所のものは、もとよりその麗筆に係る南海の猟奇的冒険詩に有之候』
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
たゞ少し遠大な計畫を立てゝ、過去十年間のあらゆる試驗問題を蒐集しうしふして見ようと思ひ立つて、散歩の序によく古本屋などを漁るのが、一番受驗生らしい心持だ。もうそれも七ヶ年分は集めた。
受験生の手記 (旧字旧仮名) / 久米正雄(著)
著者マツクフアレエンは、ブライトンで、このドラマンドに会ひ、その、日本に関する書物の蒐集しうしふを見せて貰つた。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
今は科學博物館に於ける蒐集しうしふの外には、あまり市中で和時計の現物を見る機會もありません。
伊東胡蝶園の祖父伊東玄朴は蘭書の蒐集しうしふ家として聞えてゐたが、数多いその書物のなかで、たつた一つだけ風呂敷包みにして、その上に封印までして、うしても他人ひとに見せなかつた。
「この年(千八百八十二年)わが病的なる日本美術品蒐集しうしふの為につひやせし金額、実に三千フランに達したり。これわが収入の全部にして、懐中時計をあがなふべき四十フランの残余さへとどめず」
数日以来(千八百七十六年)日本におもむかばやと思ふ心とどめ難し。されどこの旅行はわが日頃の蒐集しうしふ癖をみたさんが為のみにはあらず。われは夢む、一巻の著述を成さん事を。題は『日本の一年』。