葛布くずふ)” の例文
甲斐は好きな藍染あいぞめの木綿の単衣ひとえに、白葛布くずふはかまをはき、短刀だけ差して、邸内の隠居所にいる母のところへ、挨拶にいった。
蹴鞠けまりの遊びの時にはく袴は必ずこの葛布くずふの袴で、その供給地として昔から有名だったのは、遠州の掛川かけがわ地方であった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
織物の名誉はむしろ掛川かけがわの仕事の方にかかっているといわねばなりません。掛川の宿が葛布くずふの名で知られてから、もう何年になるのでありましょうか。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
葛布くずふ小者袴こものばかま藍木綿あいもめん肩衣かたぎぬを着ていた。秀吉の足もとへ来てぬかずくなり両手をつかえたまま云った。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は筒袖の着物に、鹿の皮の袖無しを重ね、そまつな葛布くずふの短袴に、なにかの毛物の皮で作った草履をはいている。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
葛布くずふの着物に、くたびれた袴をはき、深い編笠をかぶって、右手をふところに入れたまま、さりげなく、しかしまちがいなく、おみやのあとを跟けていった。
石川は紺染めの帷子、葛布くずふはかまで、右の袖先が肩から斜めに、袴前にはさんであった。ちょっと見ると右だけふところ手をしているようで、腰には脇差だけしか差していなかった。
幸之進は綸子りんずの着物に大口ばかま、武者鉢巻をしてたすきをかけ、下に鎖帷子くさりかたびらを着たものものしい姿であったが、三之丞は木綿の着物に葛布くずふの短袴、わら草履という無雑作な恰好だから
備前名弓伝 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
むっとした表情で、風呂舎から出ると、持参の古びた帷子かたびらに、そまつな葛布くずふの袴をつけ、茶をすする暇も惜しいというふうに、「比女さまに、すぐおめどおりが願いたい、と申上げて呉れ」
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)