荒菰あらごも)” の例文
荷駄の背には荒菰あらごもおおいかけてある。そしてがんじがらみにした男の体を鞍の上にくくしつけ、両側から柴の薪束まきたばを抱き合せてある。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戸板へ畳を載せて、その上へ荒菰あらごもを敷いたばかりの釣台の上へのせられながら、口をいているのが、イヤなおばさんというんでしょう。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
二人の被害者の屍体したいも、蒲団に包んだ上から荒菰あらごもで巻いて、町から呼んだ自動車に載せて、解剖のため、大学へ運び去られたアトであった。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
荒菰あらごもをかぶせて寝かしてある、その菰の下から出た、水ぶくれの足の裏には、何だと思う、君? あの御札がぴったりはすっかけに食附いていたんだ。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彫りかけた楠の木の面材が、荒菰あらごもの上に置いてあった。木屑が四辺あたりに散っていた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
心中のなきがらは赤裸にして手足を縛って、荒菰あらごもに巻いて浄閑寺じょうかんじへ投げ込むという犬猫以上の怖ろしい仕置きを加えても、それはいわゆる「亡八くるわの者」の残酷を証明するに過ぎなかった。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しっとりと荒菰あらごもの上に座っているのだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
じかでは畏れ多いといって背に荒菰あらごもを巻いていたので、りんりなひたいの汗のみか、彼の五体はまるで俵蒸たわらむし同様になっていた。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)