若楓わかかえで)” の例文
獄舎、白洲のあるこの役邸にも、中庭があり、ぬれ縁の外には、若楓わかかえでのみずみずしい梢に、夏近い新鮮なもれがそよいでいた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若楓わかかえでは幹に手をやっただけでも、もうこずえむらがった芽を神経のように震わせている。植物と言うものの気味の悪さ!
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
隣りの木犀もくせいにも、若楓わかかえでにも、えにしだにも、藤にも、桜にも、どの木にも、どの木にも、蛇がまきついていたのである。けれども私には、そんなにこわく思われなかった。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
前の庭の若楓わかかえでかしわの木がはなやかに繁り合っていて、何とはなしに爽快そうかいな気のされるのをながめながら、源氏は「和しまた清し」と詩の句を口ずさんでいたが、玉鬘の豊麗な容貌ようぼう
源氏物語:24 胡蝶 (新字新仮名) / 紫式部(著)
若楓わかかえで茶色になるも一さかり 曲水
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
信玄は、毘沙門堂の縁に、床几しょうぎをおかせて腰かけていた。幹の大きな若楓わかかえでが、そのすがたに燦々さんさんと日光のをそよがせていた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小さい日本建にほんだての郵便局の前には若楓わかかえでが枝をばしています。その枝に半ばさえぎられた、ほこりだらけの硝子ガラス窓の中にはずんぐりした小倉服こくらふくの青年が一人、事務をっているのが見えました。
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
白いえりあしは、武蔵の目に、そう訴えているようだった。辺りの若楓わかかえでの樹は、浅いみどりでここの場所を人目から隠している。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)