くもり)” の例文
方棟は不思議な車もあったものだと思いながら家へ帰ってきたが、どうも目のぐあいが悪いので、人に瞼をあけて見てもらうと、ひとみの上に小さなくもりが出来ていた。
瞳人語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
四壁沈々、澄みとほりたる星夜ほしよの空の如く、わが心一念のくもりけず、えに冴えたり。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
その大胆らしい界の線をくもりのない夕空に画き、時としては、近きあたりの森には、雲も烟も見えぬに、その巓は、鼠色の霧のを掛けられ、西山に這入り掛つた夕日の、最後の光に触れて
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
飛簷ひえん傑閣隙間なく立ち並びて、そのくもりなきこと珠玉の如く、その光あること金銀の如く、紫雲棚引き星月かゝれり。にこの一幅の畫圖の美しさは、譬へば長虹をちてこれをいろどりたる如し。
「昨夜風自北。月泝走雲行。時当雲断処。光彩一倍生。」かくて十五夜に至ると、天は全く晴れて、ちとくもりの月の面輪を掠むるものだに無かつたので、茶山は夜もすがら池をめぐつて月をもてあそんだ。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)