羸弱るいじゃく)” の例文
清逸のことだから元来羸弱るいじゃくな健康をそこねても何んとかするであろうが、それまでの苦心を息子一人にさせておくのは親の本能が許さなかったろう。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そのあまりに完全な立派さがかえって悲運を想わせるような顔立ちでした。子供はかん持ちらしい鋭く羸弱るいじゃくな子でした。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかも、われわれの羸弱るいじゃくな脳髄は、獲得したものを残らず貯えて置くわけではない。落ちなかった果実は、いつか死滅し消失するであろう。人生とはかくのごときものである。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
そして孤となり羸弱るいじゃくな生まれであったが、植物が好きであったので山野での運動が足り、且つ何時も心が楽しかったため、従って体が次第に健康を増し丈夫になったのである。
山を好むと云っても、身体羸弱るいじゃくであるため、実際、高山へ登ったことは殆んど無いのだ。
登山趣味 (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
ことに、体格の強壮な自分なら、苦学でもなんでも、やれぬことはない。これに反して青木、羸弱るいじゃくといってもよい青木にとって、苦学などということは、思いも及ばぬことだった。
青木の出京 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
一たいこんな凡庸カマンプレイスな街上風景の片鱗ほど、力づよく旅人を打つものはあるまい。旅にいると誰でも詩人だからだ。あるいは、すくなくとも詩人に近いほど羸弱るいじゃくな感電体になっている。
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
「人既ニ生ルレバ皆各其体質アリ。筋骨強堅ニシテ肩広ク胸瞠きょうどう大ニ毛髪叢生そうせいシ、膚色潤沢ニ歯整ヒかつ強ク、臓腑ク発達スルモノこれヲ強壮ノ体質トシ、之ニ反スルヲ羸弱るいじゃくノ体質トス」
呉秀三先生 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
ただ気圧の点あるのみ、勿論運動または沐浴もくよく不如意ふにょい等も、大に媒助ばいじょする所ありしには相違なきも主として気圧薄弱のしからしむる所ならんか、しばらうたがいを存す、もし予にして羸弱るいじゃくにして
もともと神経が羸弱るいじゃくで、しょげたり喜んだり気分のむらの激しい人だから、何かちょっとした事件に興奮して地位も年齢も忘れて、おどり出したというわけか、でも、それにも程度がある
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
頼襄が、いわゆる光仁・桓武の朝、彊埸きょうえき多事、宝亀中、廷議冗兵じょうへいをはぶき、百姓を殷富いんぷにす。才、弓馬に堪うる者は、もっぱら武芸を習い、もって徴発に応ず。その羸弱るいじゃくなる者みな農業に就く。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
葵の父は、生来羸弱るいじゃくな、無意志な人物だった。
金狼 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
わたしは今でも思う——一人にしてかの女と対等の力で愛し合える男がこの世で在り得るだろうかと。もしあっても、恐らく永い間には愛の気魄きはくに負かされて精神羸弱るいじゃく者になってしまっただろうと。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)