義眼いれめ)” の例文
原稿の上では急に人が変り顔が変り彼の生活が変り、ぐにゃぐにゃさんがカンカン男になり、カンカン男が哲学者の鉄兜をかぶり時折ニイチエの義眼いれめをはめこんでいた。
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
かまきり親爺はいつも眼の玉をむいてゐるが、このどんぐり眼は義眼いれめだね。今日は一年の大晦日だ。あしたは一年のはじまりだ。どこかのうちの嫁さんは親爺を残してあひびきだとさ。
殊に義眼いれめの井上さんが来なくなってからは、足繁く遊びに来るようになった。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
岡の目の上には葉子の目が義眼いれめされていた。葉子のよしと見るものは岡もよしと見た。葉子の憎むものは岡も無条件で憎んだ。ただ一つその例外となっているのは愛子というものらしかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
こう言って取りだしたのは、四つの義眼いれめと一箱の短く切った頭髪でした。
頭蓋骨の秘密 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
彼は後で支柱夫に出世したけれど、外に、島根の方から流れて来ている祭文語さいもんかたりの義眼いれめの男や、夫婦者の坑夫が二組、まむし酒を売るテキヤ、親指のない淫売婦、サーカスよりも面白い集団であった。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
亭主はまだ三十二三の肥つた一目見て好人物とほか思はれぬ男だつた。そして誰の眼にも丸田以上に色白の美男だつた。眼は義眼いれめのやうに大きく立派で、殊に顔ぢゆうでは其の鼻が最もみごとであつた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
江馬兆策の両眼が義眼いれめのように物凄くギラギラと光った。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ペリカンのつぶら赤目を我見るにつひに動かず義眼いれめの如し
河馬 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
露西亞ロシヤの女郎衆が、女郎が義眼いれめをはめるよに
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
原稿の上ではきゅうに人が変り顔が変り彼の生活が変り、ぐにゃぐにゃさんがカンカン男になり、カンカン男が哲学者の鉄兜をかぶり時折ニイチエの義眼いれめをはめこんでいた。