羅針盤らしんばん)” の例文
ことに内心の羅針盤らしんばんを欠いてるために、自家撞着どうちゃくをきたし、自己を破壊するようなことばかりをし、自己を否認しているのであった。
「これゃもう、追いつめられるにきまったけん、羅針盤らしんばん象限儀しょうげんぎをはずして、わからんところへ隠しておいちくれ」
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
花ありてこそ吾人は天地の美を知る、英雄ありてこそ人間のなるを見る、人類の中にもっともひいでたるものは英雄である、英雄は目標である、羅針盤らしんばんである
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
鳥は夜盲であり羅針盤らしんばんをもっていないとすると、暗い谷間を飛行するのは非常に危険である。
疑問と空想 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
精密なる海図と羅針盤らしんばんとがあるとはいえ、またそれが、めだかが湖に泳ぐような比例で海が広いとはいえ、とまれ先が見えないということは、安心のならないことであった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
正規の用兵に熟達し、戦の羅針盤らしんばんたる戦術をのみ手段とし案内としている、それらの老水夫も、民衆の憤怒という広大なる白波に面しては、まったく当惑するのほかはない。
が、私自身には生憎あいにく良心の持ち合せがない、はゝゝゝ。いつかも、貴君に云った通り、金さえあれば、良心なんかなくても、結構世の中が渡って行けますよ。良心は、羅針盤らしんばんのようなものだ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ぼく一生いつしやう羅針盤らしんばんおかれたのはじつ此時このときです。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
同時にライフ・ボート三せき、ボート二せきと羅針盤らしんばんをあらいさり、あまる力で船べりをうちくだいた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
羅針盤らしんばんおもてを回る針は、同じく人の心の中をも回っていた。各人はその取るべき歩みを前方に進めていった。王党は自由主義者となり、自由主義者は民主主義者となっていた。
古い共和派になったり、王党になったり、革命派になったりしていた。過激手段にたいする彼の信仰は、まるで狂った羅針盤らしんばんみたいで、その針は北から南へ南から北へと一飛びに動き回っていた。
大洋はその波濤はとうの恐るべき一律さのうちに彼を迷わさんとするけれども、彼はその心を、羅針盤らしんばんを有していて、それに助言されて常に北を教わる。暗夜にはその照燈が星の光を補う。
羅針盤らしんばんなしに迷い込んだその新作の大洋中では、彼らにとって彼女は、確実なものであり、迷う危険のない案内知った堅固な陸地であった。クリストフは彼らの考えを見て取って、苦笑をもらした。
芸術家というものは、あらしの間にも常に北を指してる羅針盤らしんばんだ……。
人間のある種の能力は、未知なるものの方へ向けられている、すなわち、思想と夢想と祈祷きとうとが。未知なるものは一つの大洋である。人の本心とは何か? それは未知なるものに対する羅針盤らしんばんである。
なぜかなれば、コロンブスが羅針盤らしんばんをもってアメリカに対してなすところを、アレクサンデルは剣をもってアジアに対してなすからである。コロンブスのごとく、アレクサンデルは新世界を発見する。