罵言ばげん)” の例文
そのどろぼうの牛豚のような黙殺の非礼の態度が、どうにも、いまいましく、口から出まかせ、ここぞと罵言ばげんをあびせかけていたのである。
春の盗賊 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その罵言ばげんにも、返すことばはないのであった。のみならず、ほんとに、彼ら武家が怒ったら、どんな事態になることやら、はかり知れない。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
罵言ばげんは一切根拠のないものですが、特に注意すべきはかかる非難の過半数がユダヤ系から出たものであることと、もうひとつはドイツ国内にも
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼は言葉を途切らして、ライン河に拳固げんこをさしつけ、軽侮の様子でつばを吐き、上品な罵言ばげん——他の下等な罵言を吐くほど彼は自分を卑しくしなかった——を発した。
相手はこどもに返つた老人だといふ考への下に、愉快に自分の罵言ばげんも聴き、寛容も秋成に示せた。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
そこまで読むのが精いっぱいだった、全身ぶるぶる震いだしながら、思わずその手紙を鷲掴わしづかみにして、「ひどい」と呟やく頭上へ、まるで石でもなげうつように罵言ばげんが飛んできた。
恋の伝七郎 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
警部の罵言ばげんがますます激しくなり、ことば数が多くなればなるほど、彼女の顔つきはいよいよ愛想がよくなり、ものすごい警部に向けられた微笑は、ひとしお魅惑を増してきた。
狂ったような黒い極端な怒りの閃光にとらえられて、私は思いつくかぎりの罵言ばげんを吐き散らし、衝動的に茶碗を取り上げると、畳に叩きつけた。安物のせいか、湯呑みは割れなかった。
愛のごとく (新字新仮名) / 山川方夫(著)
罵言ばげんをやめないのである。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
青谷技師は調室の真中に引きだされ、署長以下のけわしい視線と罵言ばげんとに責められていた。彼は極力犯行を否定した。
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
まったく一行いちぎょうの詩も書けなくなり、反駁はんばくしたいにも、どうにも、その罵言ばげんは何の手加減も容赦ようしゃも無く、私が小学校を卒業したばかりで何の学識も無いこと
男女同権 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼は立ち上がり、クリストフが正当だと叫び、非難者を反駁はんばくし、格闘したがっていた。臆病おくびょうな少年たる彼とは思えなかった。彼の声は喧騒けんそうのうちにもみ消された。露骨な罵言ばげんを招いた。
王平は黙然と、彼の罵言ばげんにこらえていた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、私は自分ながら、あまり、筋の通ったこととも思えないような罵言ばげんをわめき散らして、あの人をむりやり、扉の外へ押し出し、ばたんと扉をしめて錠をおろした。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ネルスキーは、ついに勘忍袋の緒を切らしたという風に、あくどい罵言ばげんをはきはじめた。それでも金博士は、やはり西瓜の種をくらうことだけに口をうごかして、ネルスキーのためにはこたえない。
いいえ、日本人の悪口は、威勢がいいだけで、むしろ淡泊たんぱくです。辛辣というのは当りません。支那には他媽的タマテイという罵言ばげんがありますが、これなどが本当の辛辣といっていいでしょう。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)