網代車あじろぐるま)” の例文
出来るだけ目立たぬようにと、只、網代車あじろぐるまの小ざっぱりとしたのを用意させて、それに馬に乗った男共を四人、下人を数人だけ附添にした。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
後醍醐は、はや網代車あじろぐるまの内へ、お体の半ばを入れかけていたのだが、そこから、もいちど西園寺公宗、公重を振り向いて
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのあとからは、めずらしく、黄牛あめうしかせた網代車あじろぐるまが通った。それが皆、まばらがますだれの目を、右からも左からも、来たかと思うと、通りぬけてしまう。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その中に外見そとみ網代車あじろぐるまの少し古くなった物にすぎぬが、御簾の下のとばりの好みもきわめて上品で
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
けれども、生絹は町から町へ網代車あじろぐるまって、停めることがなかった。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
熱心に薫香たきものの香をそでにつけて、院は日の暮れるのを待っておいでになった。そしてきわめて親しい人を四、五人だけおつれになり、昔の微行しのびあるきに用いられた簡単な網代車あじろぐるまでお出かけになった。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
町はずれの住んだ家に来て見れば母屋づくりの立派な一棟ひとむねのなかから、しょう吹く音いろがきこえ、おとなうことすらできなかった。近くの家々の人も、網代車あじろぐるま前簾まえすだれの中の生絹の顔を見ることがなかった。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
簡単な網代車あじろぐるまで、女の乗っているようにして奥のほうへ寄っていることなども、近侍者には悲しい夢のようにばかり思われた。昔使っていた住居すまいのほうは源氏の目に寂しく荒れているような気がした。
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)