素枯すが)” の例文
部屋ごとの花瓶に素枯すがれた花は、このあいだに女中が取り捨ててしまう。二階三階の真鍮しんちゅうの手すりも、この間に下男ボオイが磨くらしい。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ただ彼には、もう若い感激は素枯すがれている。それと、情熱だけでものに当ることは、昔から嫌いなたちでもある。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
国の方で素枯すがれたねぎなぞを吹いている年ごろの女が、ここでは酸漿ほおずきを鳴らしている。渋い柿色かきいろの「けいし」を小脇こわきにかかえながら、うたのけいこにでも通うらしい小娘のあどけなさ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
堆くもり上るように伸びかわした大きな葉の水々しさを、濃淡を、晴れ切ったさおな空の下に遠くのぞむのもよければ、冬、素枯すがれつくしたあとの褐色のふとい茎のかげをひたしてめたくひろがった水
上野界隈 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
素枯すがれはてたる肋骨あばらなり。
哀音 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
素枯すがれし花に等し
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
と同時にまっ白な、光沢のある無数の糸が、半ばその素枯すがれた莟をからんで、だんだん枝の先へまつわり出した。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
姿こそ、昨日の素枯すがれた浪人とは、生れ変ったように違っているが、たしかに、それは大月玄蕃だ。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と同時に戯単の中から、何かがほろりと床へ落ちた。何かが、——一瞬間の後、私は素枯すがれた白蘭花パレエホオを拾い上げていた。白蘭花はちょいと嗅いで見たが、もう匂さえ残っていない。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
素枯すがれた蘆の色をした髪は、殆ど川のやうに長かつた。
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)