紋日もんび)” の例文
大抵のよい客はあしたの紋日もんびを約束して今夜は来ない。引け過ぎの廓はひっそりと沈んで、絹糸のような春雨は音もせずに軒を流れていた。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
親父は廓の遊び人で、紋日もんびとらという手のつけられないあぶれ者だが、死んだ母だけは、今も温かく甘く涙ぐましく、お綱の胸に残っている。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いくら来ても振って/\振り抜きますが、お客は来て来て来抜き、紋日もんびの仕舞い何やかやまで行届ゆきとゞかし、少しも厭らしい事を云わずに帰ります。
何しろ大阪じゃ、浜寺の魚市には、きた竜宮があらわれる、この住吉の宝市には、天人の素足が見えるって言います。一年中の紋日もんびですから、まあ、是非お目に掛けましょう。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
祭日と紋日もんびが続いて店を休むわけに行かず、てん手古舞いしながら二日商売をしたものの、蝶子はもう慾など出している気にもなれず、おまけに忙しいのと心配とで体が言うことを利かず
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「さアそろそろ始まッたぞ。今夜は紋日もんびでなくッて、紛紜日もめびとでも言うんだろう。あッちでも始まればこッちでも始まる。とりまち明後日あさッてでござい。さア負けたア負けたア、大負けにまけたアまけたア」
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
身長なみ、痩せ形、髪くろく色白、右の眉尻に黒子ほくろ、他に特徴なし、年二十四、当時無宿、江戸浅草孔雀長屋人別えどあさくさくじゃくながやにんべつ紋日もんびとらろう娘、女賊見返りお綱。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紋日もんびとらにつきまとわれて、何かやむない事情にしばられ、なさぬ仲のお三輪を生み、乙吉を生み、そして、さすがな色香も年ごとにせて、おはぐろどぶの長屋に散った——。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紋日もんびとらだ。紋日の虎五郎だ」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)