筆誅ひっちゅう)” の例文
「焼芋を食うも蛇足だそくだ、割愛かつあいしよう」とついにこの句も抹殺まっさつする。「香一炷もあまり唐突とうとつだからめろ」と惜気もなく筆誅ひっちゅうする。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
十余年前銀座の表通にしきりにカフエーが出来はじめた頃、此に酔を買った事から、新聞と云う新聞はこぞってわたくしを筆誅ひっちゅうした。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
復讐の同盟に加わることを避けて、先君の追福と陰徳とに余生を送った大野九郎兵衛は、不忠なる元禄武士の一人として浄瑠璃の作者にまで筆誅ひっちゅうされてしまった。
磯部の若葉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
諸新聞は翌日、パリーのよき趣味によって罰せられた野卑なドイツ人を、いっしょになって筆誅ひっちゅうした。
「うむ、あんまり臆病者がたくさん出るので、心外でたまらぬから、いちいち筆誅ひっちゅうを加えてやった」
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
社会はこれに向って制裁と打撃とを加えねば成らぬ。新聞記者は好んで人の私行を摘発するものではないが、社会に代ってそれらの人物を筆誅ひっちゅうするに外ならないのであると。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
本社はさらに深く事件の真相を探知の上、大いにはりがねせい、ねずみとり氏に筆誅ひっちゅうを加えんと欲す。と。ははは、ふん、これはもう疑いもない。ツェのやつめ、ねずみとりに食われたんだ。
クねずみ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
筆誅ひっちゅうしてやります」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それとなく別盃べっぱいむために行きたい気はしたが、新聞記者と文学者とに見られて又もや筆誅ひっちゅうせられる事を恐れもするので
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「いえ、僕の兄の会社ばかりでなく、一列一体に筆誅ひっちゅうして貰いたいと云う意味だ」
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また夏中は隣家となりのラディオを聞かないようにする事や、それ等のためにまたしても銀座へ出かけはじめたのであるが、新聞と雑誌との筆誅ひっちゅうを恐れて、裏通を歩くにも人目を忍び
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)