たし)” の例文
母はとうとう二人をたしなめた。自分もそれを好いしおにすぐ舌戦を切り上げた。お重も団扇を縁側へ投げ出しておとなしく食卓に着いた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
始終蔭言かげごとばかり言っていた女房かみさん達、たまりかねて、ちと滝太郎をたしなめるようにと、ってから帰る母親に告げた事がある。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「二郎はまるで堂摺連どうするれんと同じ事だ」と父が笑うようなまたたしなめるような句調で云った。母だけは一人不思議な顔をしていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
僕は低い叔母の声のうちに、たしなめるようなまたおそれるような一種の響を聞いた。千代子はただからからと面白そうに笑っただけであった。その時百代子もそばにいた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
細君はたしなめられるような気がした。彼女にはそれを乗り越すだけの勇気がなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
兄さんは私が偽という言葉を字引で知っているだけだから、そんな迂濶うかつな不審を起すのだと云って、実際に遠い私をたしなめました。兄さんから見れば、私は実際に遠い人間なのです。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
医者はいないのかな、早く呼んでやったらいいだろうにと間接ながらたしなめたら、ええ今にどうかするでしょうという答である。この時案内はもう本来の気分を回復していたと見える。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
綺麗きれい友染模様ゆうぜんもようの背中が隠れるほど、帯を高く背負しょった令嬢としては、言葉が少しもよそゆきでないので、姉はおかしさをこらえるような口元に、年上らしい威厳を示して、妹をたしなめた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
須永はよく彼に向って、なぜその前に僕の所へ来て打ち明けなかったのだと詰問した。内幸町の叔父が人をかつぐくらいの事は、母から聞いて知っているはずだのにとたしなめる事もあった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御仙がそれを受付口へ見せている間に、千代子は須永をたしなめた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)