空店あきだな)” の例文
それは、演戯茶房しばいちゃや蔦屋つたや主翁ていしゅ芳兵衛よしべえと云う者であったが、放蕩ほうとうのために失敗して、吉原角町河岸よしわらすみちょうがしつぶれた女郎屋の空店あきだなを借りて住んでいた。
幽霊の衣裳 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
死んだきょうだいの四人は、差配の家で湯灌ゆかんをし、みんなで死装束をしてやってから、卯兵衛の隣りにある空店あきだなに移した。
赤ひげ診療譚:06 鶯ばか (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そういうわけですから、家はもう空店あきだなになってしまって、二、三日中にほかの人が越して来るとかいう噂でございます
半七捕物帳:09 春の雪解 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そこで、彼女はそば空店あきだなの中へ、素早く入って身を忍ばせ、二人の話を立聞きした。その中に勘兵衛が無礼の仕打ちを、主税に対してとろうとした。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
長屋はたった四軒、右側の二軒は空店あきだなで、お秋の家は左側の奥、私のうちの隣でさ、稼業柄思い切り汚造きたなづくりな暮し向きだから、外から泥棒か入りっこはありません。
寅吉は独り者であるから、家族について調べるというすべもない。近所の者が集まって投げ込み同様の葬式を済ませたので、その家は空店あきだなになったままである。
建具屋の金次と、上總屋の掛り人で、お紋に執拗しつこく附きまとつたために、店から遠ざけられ、裏の空店あきだなを借りて、夜だけ其處へ泊つてゐる市五郎でなければなりません。
その主税の眼の前の地上を、小蛇らしいものが一蜒りしたが、空店あきだなの雨戸の隙の方へ消えた。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「こっちも向うも、みんな空店あきだなのようだな」
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
供物くもつなんぞを盗み食いしていたのが、だんだん増長していろいろの悪戯を始め出して、そのうちに囲い者の家があいたもんだから、その空店あきだなの方へ巣替えをして
半七捕物帳:06 半鐘の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
平次自身も一日一度づつは覗いてゐるのですが、此間の事件があつてから後は、殆んど空店あきだなのやうに空つぽにして、巳之松は言ふ迄もなく、母親のお茂も、娘のお信も寄りつきません。
隣りは空店あきだなですし、路地を出這入りする時にも好い塩梅に誰にも見付からなかったんです。
半七捕物帳:12 猫騒動 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
夢中で飛び込んだ軒下は運惡く空店あきだなで、その先は材木置場、二三軒拾つて安全な場所へ辿たどり着くまでに、お勢の身體は川から這ひ上がつたやうに、思ひおくところなく濡れてをりました。
夢中で飛び込んだ軒下は運悪く空店あきだなで、その先は材木置場、二三軒拾って安全な場所へ辿たどり着くまでに、お勢の身体は川からい上がったように、思いおくところなくれておりました。
「やあ、空店あきだなだ」と、松吉は眼を丸くした。
半七捕物帳:67 薄雲の碁盤 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)