空事そらごと)” の例文
ゆうべのことがどうも空事そらごとではないようにも思われ、今度また何か起こって来るのではないかという予感を除くことが出来ないので
ミネは、まだ空事そらごとを聞いているような、へんに実感の伴わぬ気持で、畳んだ手紙を封筒に戻すと、笑顔を作り低い声でいった。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
暫くは、私は、鏡の中の血腥ちなまぐさい影絵を現実の出来事と思わず、私の病的な錯覚か、それとも、覗きからくりの空事そらごとをでも見た様に、ボンヤリとそのまま寝ころんでいたことです。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この御姫様の御行状ごぎょうじょうを、嘘のように思召す方もいらっしゃいましょうが、現在私が御奉公致している若殿様の事を申し上げながら、何もそのような空事そらごとをさし加えよう道理はございません。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
過ぎ去った過去のことを思い出してくよくよするのは、遠い先の未来のことを妄想もうそうして思い上るのと同じくらい愚劣な空事そらごとだからな。一番大切なのは現在だ。現在の中に存在する可能性だ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
うつゝならぬ空事そらごととのみ思ひきや、今や眼前かゝる悲しみに遇はんとは。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
真実まこと空事そらごと取りまぜて、かたき討ちの講釈をならべ立てた次第です。
半七捕物帳:60 青山の仇討 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
僕は君の悪企わるだくみにほとほと感心して了ったよ。よくもあんな空事そらごとを考え出したもんだね。
灰神楽 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
奉行「このに及んで、空事そらごとを申したら、その分にはさし置くまいぞ。」
じゅりあの・吉助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
二十年來のこゝろざしも皆空事そらごととなりにける。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)