秦淮しんわい)” の例文
それがどうも彼女には、幼少の時から見慣れてゐる、秦淮しんわいらしい心もちがした。しかし彼女が今ゐる所は、確に天国の町にある、基督の家に違ひなかつた。
南京の基督 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
われ此の花に相対して馥郁たる其の香風かうふううちに坐するや、秦淮しんわい秣陵まつりよう詩歌しいかおのづから胸中に浮来うかびきたるを覚ゆ。
来青花 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
張鴻業ちょうこうぎょうという人が秦淮しんわいへ行って、はんなにがしの家に寄寓していた。そのへやは河に面したところにあった。
天宝てんほう十三年広陵に遊び、王屋山人魏万ぎまんと遇い、舟を浮かべて秦淮しんわいへ入ったり、金陵の方へ行ったりした。
岷山の隠士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
秦淮しんわいには驚いたね。さようさ。幅が広い処で六間もあろうか。まあ、六間幅のどぶだね。その水のきたないことおびただしい。それから見ると、西湖せいこの方はとにかく湖水らしい。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
本篇を草するに当り、谷崎潤一郎氏作「秦淮しんわいの一夜」に負ふ所すくなからず。附記して感謝の意を表す。
南京の基督 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
あるいはまた一晩中、秦淮しんわいあたりの酒家しゅか卓子たくしに、酒を飲み明かすことなぞもある。
奇遇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この間肥つた奥さんと一しよに、画舫ぐわばうに乗つてゐた人かしら。いやいや、あの人は髪の色が、もつとずつと赤かつた。では秦淮しんわいの孔子様のべうへ、写真機を向けてゐた人かも知れない。
南京の基督 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)