福良ふくら)” の例文
たとえば、熊谷直実が、敦盛あつもりのかたみを、淡路の福良ふくらにある父経盛の許へ届けてやったという話なども、ありそうなことに考えられる。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから海岸でも山の中でも水流の屈曲によって造ったやや広い平地で、従って耕作居住に適した所をふくれるという意味から福良ふくらといっている。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
今でも洲本から福良ふくらへかよう街道のほとりの市村と云う村へ行けば、人形の座が七座ほどある。昔はそこに三十六座もあったくらいで、俗にその村を人形村と呼んでいる。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
淡路の福良ふくら港にこもった。
淡路あわじ福良ふくら港には、ここ十日ばかりの間に、大船、小船が何百そうとなく、結集されていた。——海は五月の色の深さ。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
全体に日本は消費機関ばかり無暗むやみに発達した国である。昔から由良千軒ゆらせんげんとか福良ふくら千軒とかって、千軒の人家があれば友食ともぐいで立って行けると言っていたが、そんな道理のあるべきものでない。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この本軍は、ここ福良ふくらを発して、鳴門なると渦潮うずしおを渡り、阿波あわの土佐どまりに、足場を取る作戦と見えた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すなわち由良ゆら女良めら及び福良ふくらである。右の内ユラとメラとはまだ意味がよく分らぬが、福良は日本語のふくれると言う語と語原を同じくするもので、海岸線の湾曲している形状に基いたものと思う。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
九州でクマ(隈)といったのもこれに当り、あるいはまた福良ふくらと称するのも小川内であって、そのいわゆる盆地の上下をくくるところの急湍きゅうたんの地が、ツル(津留)であろうということはかつて述べた。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)