神路山かみじやま)” の例文
あたしは先年、神路山かみじやまが屏風のようにかこんだ五十鈴河のみたらしのふちで、人をおそれぬ香魚が鯉より大きくふとっているのを見た。
赤福のもちの盆、煮染にしめの皿も差置いたが、猪口ちょくも数をかさねず、食べるものも、かの神路山かみじやま杉箸すぎばしを割ったばかり。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今日のように夜東京を発して、翌朝神路山かみじやまを拝し得る便利な時世ではない。幾日幾夜の旅を続けて小俣まで辿り著いたら、その年は暮れてしまった。眼が覚めて見れば元日である。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
昼は千早振ちはやぶる神路山かみじやまの麓、かたじけなさに涙をこぼした旅人が、夜は大楼の音頭おんど色香いろかえんなるに迷うて、町のちまたを浮かれ歩いていますから、夜のにぎわいも、やっぱり昼と変らないくらいであります。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
階下したも二階もこの温気うんきに、夕凪のうしおを避け、南うけに座を移して、伊勢三郎いせのさぶろう物見松ものみのまつに、月もあらば盗むべく、神路山かみじやま朝熊嶽あさまがたけ、五十鈴川、宮川の風にこがれているらしい。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
神路山かみじやまの樹はあおくても、二見の波は白かろう。ひどいきおい、ぱっと吹くので、たじたじとなる。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
橋のたもとには、女房達が、ずらりと大地に並びまして、一文二文に両換りょうがえをいたします。さあ、この橋が宇治橋と申しまして、内宮様ないぐうさまへ入口でござりまする。川は御存じの五十鈴川いすずがわ、山は神路山かみじやま
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)